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新共同訳 ヨブ記 簡略バージョン

新共同訳 ヨブ記 簡略バージョン

01)ウツの地にヨブという人がいた。無垢な正しい人で、神を畏れ悪を避けて生きていた。 七人の息子と三人の娘を持ち、 羊七千匹、らくだ三千頭、牛五百くびき、雌ろば五百頭の財産があり、使用人も非常に多かった。彼は東の国一番の富豪であった。息子たちはそれぞれ順番に自分の家で宴会の用意をし、三人の姉妹も招いて食事をすることにしていた。この宴会が一巡りするごとに、ヨブは息子たちを呼び寄せて聖別し、朝早くから彼らの数に相当する生贄をささげた。「息子たちが罪を犯し、心の中で神を呪ったかもしれない」と思ったからである。

 ある日、主はサタンに言われた。「お前はどこから来た。」「地上を巡回しておりました。ほうぼうを歩きまわっていました」「お前は私の僕ヨブに気づいたか。地上に彼ほどの者はいまい。無垢な正しい人で、神を畏れ、悪を避けて生きている。」 「利益もないのに神を敬うでしょうか。 あなたはヨブとその一族と全財産を守っておられるではありませんか。彼の手の業を全て祝福なさっています。お陰で彼の家畜は地に溢れるほどです。 いま御手を伸ばして彼の財産に触れてごらんなさい。面と向かってあなたを呪うにちがいありません。」 主はサタンに言われた。「それでは、彼のものを一切、お前のいいようにしてみるがよい。ただし彼には、手を出すな。」

ヨブの息子、娘が、長兄の家で宴会を開いていた日、ヨブのもとに召使いが報告に来た。「私どもが牛に畑を耕させ、その傍らでろばに草を食べさせておりますと、シェバ人が襲いかかり略奪していきました。牧童たちは切り殺されて、私一人だけ逃げのびててきました。」  彼が話し終らないうちに、また召使が来て言った。「天から神の火が降って、羊も羊飼いも焼け死んでしまいました。私一人だけ逃げのびてきました。」 また一人来て言った。「御報告いたします。カルデア人が三部隊に分かれて、らくだの群れを襲い奪っていきました。牧童たちは切り殺され、私一人だけ逃げのびて来ました。」 更にもう一人来て言った。「御報告いたします。御長男のお宅で、お子様たちが宴会を開いておられました。 すると荒れ野の方から大風が来て四方から吹きつけ、家は倒れ、みんな死んでしまわれました。私一人だけ逃げのびて来ました。」 ヨブは立ち上がり、衣を裂き、髪をそり落とし、地にひれ伏して言った。 「私は裸で母の胎を出た。裸でそこに帰ろう。主は与え、主は奪う。主の御名はほめたたえられよ。」 このような時にも、ヨブは神を非難することなく、罪を犯さなかった。

02)またある日、主はサタンに言われた。「お前はどこから来た。」「地上を巡回しておりました」「お前は私の僕ヨブに気づいたか。地上に彼ほどの者はいまい。無垢な正しい人で、神を畏れ、悪を避けて生きている。お前は理由もなく、私をそそのかして彼を破滅させようとしたが、彼はどこまでも無垢だ。」 「皮には皮を、と申します。まして命のためには全財産を差し出すものです。手を伸ばして骨と肉に触れてごらんなさい。面と向かってあなたを呪うにちがいありません。」「それでは、彼をお前のいいようにするがよい。ただし、命だけは奪うな。」
サタンはヨブに手を下し、頭のてっぺんから足の裏までひどい皮膚病にかからせた。 ヨブは灰の中に座り、素焼きのかけらで体中をかきむしった。 彼の妻は、「どこまでも無垢でいるのですか。神を呪って、死ぬ方がましでしょう」と言ったが、 ヨブは答えた。「お前まで愚かなことを言うのか。私たちは、神から幸福をいただいたのだから、不幸もいただこうではないか。」このようになっても、彼は唇をもって罪を犯すことをしなかった。
さて、ヨブと親しいテマン人エリファズ、シュア人ビルダド、ナアマ人ツォファルの三人は、ヨブにふりかかった災難の一部始終を聞くと、見舞い慰めようと相談して、それぞれの国からやって来た。 遠くからヨブを見ると、それと見分けられないほどの姿になっていたので、嘆きの声をあげ、衣を裂き、天に向かって塵を振りまき、頭にかぶった。 彼らは七日七晩、ヨブと共に地面に座っていたが、その激しい苦痛を見ると、話しかけることもできなかった。

03)やがてヨブは口を開き、自分の生まれた日を呪って言った。私の生まれた日は消え失せよ。身篭った事を告げた夜も消え失せよ。死を待っているが、死は来ない。静けさもやすらぎも失い、憩うこともできず、私はわななく。

04)テマン人エリファズは話し始めた。 疲れさせるだろうが、あえて一言言ってみよう。
あなたは言葉で倒れる人を起こし、崩れるる膝に力を与えたものだ。
しかしあなたの上に何事かふりかかると、あなたは弱ってしまう。それがあなたの身に及ぶと、怯える。 考えてみなさい。罪のない人が滅ぼされ、正しい人が絶たれた事があるかどうか。
忍び寄る言葉があり、私の耳はそれをかすかに聞いた。何ものかが立ち止まったが、その姿を見分けることは出来なかった。ただ目の前にひとつの形があり、沈黙があり、声が聞こえた。
「人が神より正しくありえようか。造り主より清くありえようか。神はその僕たちをも信頼せず、御使いたちさえ賞賛されない。まして人は塵の中に基を置く者であり、土の家に住む者である。しみに食い荒らされるように崩れ去る。 天幕の綱は引き抜かれ、施すすべも知らず死んでゆく。」と。

05)愚か者が根を張るのを見て私は直ちにその家を呪ったものだ。
「その子らは安全な境遇から遠ざけられ、助ける者もなく、町の門で打ち砕かれるがよい。」と。
私なら神に訴え問題を任せるだろう。見よ、幸いなのは神の懲らしめを受ける人。神は傷つけても、包み打っても、その御手で癒してくださる。

06)ヨブは答えた。
神は私に対して脅迫の陣を敷かれたのだ。
神よ、私の願いをかなえ望みのとおりにしてください。どうか私を打ち砕き滅ぼしてください。苦痛の中でもだえてもなお、慰めとなるのは聖なる方の仰せに背かなかったということです。
絶望している者にこそ友は忠実であるべきだ。さもないと全能者への畏敬を失わせることになる。 あなたたちは私の破滅を見て恐れている。 私が「財産を割いて、苦しめる者の手から救い出してくれ」と言ったことはない。私が間違っているなら分からせてくれ。教えてくれれば口を閉ざそう。
あなたたちの議論は何のための議論なのか。今はどうか私に顔を向けてくれ。私の正しさが懸っているのだ。私に不正が有るのか。

07)人間は、兵役にあるようなものだ。私の人生は空しく過ぎる月日だった、定められた報酬といえば苦しい夜だけだ。 横たわればいつ起き上がれるのかと思い、夜の長さに疲れて夜明けを待つ。肉は蛆虫とかさぶたに覆われ、皮膚は割れうみが出ている。

私は海の怪物(レビタン)なのか。竜なのか。私に対して見張りが必要なのか。「床に入れば慰めもある。横たわれば嘆きも治まる」と思ったが あなたは夢の中でも私をおののかせ、幻をもって脅かされる。 たくさんだ、もう生きていたくない。ほうっておいてください。私の一生は空しいのです。なぜ、私の罪を赦さず、悪を取り除いてくださらないのですか。今や私は横たわって塵に返る。

08)シュア人ビルダドは話し始めた。
いつまで、そんなことを言っているのか。神が裁きを曲げられるだろうか。あなたの子らが神に対して過ちを犯したからこそ、神は彼らをその罪の手にゆだねられたのだ。

あなたが神を捜し求めて憐れみを乞うなら あなたが潔白な正しい人であるなら、神は必ずあなたを顧み、権利を認めて家を元どおりにしてくださる。
私たちはほんの昨日からの存在で、何も分かってはいないのだ。神はあなたの口に笑いを満たし、歓びの叫びを与えてくださる。 あなたを憎む者は恥を被り、神に逆らう者の天幕は消えうせるであろう。

09)ヨブは答えた。
それは私も知っている。神より正しいと言える人が居るか。神は山をも移される。大地、太陽、星、天、海、北斗、オリオン、すばる。

しかし神は、私が呼びかけても返事はされまい。神は髪の毛一筋ほどのことで私を傷つけ、理由もなく私に傷を加える。
だから私は言う、同じことなのだ、と。神は無垢な者も逆らう者も、同じように滅ぼし尽くす。神が裁判官の顔を覆われたのだ。ちがうというなら、誰がそうしたのか。

私は必ず罪ありとされるのだ。なぜ、空しく労する事が有ろうか。 私は人間ともいえないような者だが、なおあの方に言い返したい。
あの方と共に裁きの座に出る事が出来るなら 、あの方と私の間を仲裁する者がいるなら、その時には、あの方の怒りに脅かされることなく私は宣言するだろう。「私は正当に扱われていない」と。

10)私の魂は生きることをいとう。神にこう言おう。
「なぜ私などと争われるのかを教えてください。なぜ私を咎めるのですか。背く者ではないと知りながら。
私に命と恵みを約束し、あなたの加護によって私の霊は保たれていました。しかし、あなたの心に隠しておられた事が、今私に分かりました。過ちを犯そうものならあなたは目をつけるが、悪から清めてはくださらない。
私から離れ去り、立ち直らせてください。二度と帰って来られない暗黒の死の闇の国に私が行ってしまう前に。」

11)ナアマ人ツォファルは話し始めた。
これだけまくし立てられては答えないわけにいくまい。
あなたは言う。「私の主張は正しい。あなたの目にも私は潔白なはずだ」と。
しかし、神があなたに対して唇を開き、何と言われるか聞きたいものだ。

あなたは神を究める事が出来るか。高い天に対して何が出来る。深い陰府について何が分かる
神は偽る者を知っておられる。悪を見て放置されることはない。
生まれたときには、人間もろばの子のようなものだ。しかし、愚かな者も賢くなれる。
もし、あなたも正しい方向に思いをはせるなら、その時こそあなたは恐怖を抱くこともなくなるだろう。人生は真昼より明るくなる。希望があるので安心していられる。多くの人があなたの好意を求める。
だが、神に逆らう者の目はかすむ。逃れ場を失って希望は最後の息を吐くように絶える。

12)ヨブは答えた。
確かにあなたたちもひとかどの民。だが私にも心があり、あなたたちに劣ってはいない。
神に呼びかけて答えを得た者が、友人たちの物笑いになるのか。人の不幸を笑い、よろめく足を嘲り安穏に暮らす者は、思い込んでいるのだ。略奪者の天幕は栄え、神を怒らせる者、神さえ支配しようとする者は安泰だ。獣に尋ねるがよい、教えてくれるだろう。主の御手が全てを造られたことを。 力も策も神と共にある。

13)そんなことはみな、私もこの目で見この耳で聞いてよく分かっている。私が話しかけたいのは全能者なのだ。
神に代わったつもりで論争するのか。そんなことで神にへつらおうというのか。へつらうなら神は告発されるであろう。黙ってくれ、私に話させてくれ。

そうだ、神は私を殺されるかもしれない。私の道を神の前に申し立てよう。この私をこそ神は救ってくださるべきではないか。神を無視する者なら、神の御前に出るはずはない。
聞いてくれ、私は訴えを述べる。私のために争ってくれる者があれば、もはや黙って死んでもよい。

ただ、やめていただきたい事が二つあります。御前から逃げ隠れはいたしませんから。御腕をもって脅かすのをやめてください。そして、呼んでください、お答えします。
私に罪と悪がどれほどあるのでしょうか。罪咎を示してください。なぜ、あなたは御顔を隠し、私を敵とされるのですか。

14)人は女から生まれ、生は短く苦しみは絶えない。木には希望がある。幹が朽ちて塵に返ろうとも、水気にあえばまた芽を吹き、苗木のように枝を張る。
だが倒れ伏した人間は再び立ち上がることなく、天の続くかぎりはその眠りから覚める事がない。

どうか、私を陰府に隠してください。人は死んでしまえばもう生きなくてもよいのです。
呼んでください、私はお答えします。その時には私の歩みを数えてください。私の過ちにもはや固執することなく、私の罪を袋の中に封じ込め、私の悪を塗り隠してください。しかし大地が塵となって押し流される時が来ても、人の望みはあなたに絶たれたままだ。彼は一人肉の痛みに耐え、魂の嘆きを忍ぶだけだ。

15)テマン人エリファズは答えた。
あなたは神を畏れ敬うことを捨て、あなたの口は罪に導かれて語り、舌はこざかしい論法を選ぶ。あなたを罪に定めるのは、私ではなくあなた自身の口だ。
あなたは最初の人間として生まれたのか。神の奥義を聞き知恵を自分のものとしたのか。あなたの知っていることで私たちの知らない事が有ろうか。

どうして人が清くありえよう。神は聖なる人々をも信頼されない。天すら神の目には清くない、まして人間は、水を飲むように不正を飲む者、憎むべき汚れた者なのだ。

悪人の一生は不安に満ち、暴虐な者の生きる年数も限られている。神を無視する者に子は生まれず、賄賂を好む者の天幕は焼き尽くされる。

16)ヨブは答えた。
そんなことを聞くのはもうたくさんだ。あなたたちは皆慰める振りをして私を苦しめる。「無駄口はやめよ」とか「何にいらだってそんな答えをするのか」と言う。私があなたたちの立場にあったなら、こんな事を言っただろうか。

私はもう疲れ果てました。この私の姿が証人となり、私に代わって抗議するでしょう。神は悪を行う者に私を引き渡し、神に逆らう者の手に任せられた。私の手には不法もなく、祈りは清かったのに。

このような時にも、見よ、天には私のために証人があり、高い天には私を弁護してくださる方がある。私のために執り成す方、友神を仰いで私の目は涙を流す。人とその友の間を裁くように、神が御自分とこの男の間を裁いてくださるように。

17)息は絶え、人生の日は尽きる。私には墓があるばかり。
人々はなお私を嘲り、私の目は夜通し敵意を見ている。あなた自ら保証人となってください。彼らの心を覆って目覚めることのないようにしてください。彼らを高く上げないでください。

「利益のために友を裏切れば子孫の目がつぶれる。」この格言は私のことだと人は言う。私は顔につばきされる者。私の人生は過ぎ去り、私の計画も、心の願いも失われた。私は墓穴に向かって「あなたは私の父」と言い、蛆虫に向かって「私の母、姉妹」と言う。どこになお、私の希望があるのか。全ては塵の上に横たわっている。

18)シュア人ビルダドは答えた。
いつまで言葉の罠の掛け合いをしているのか。まず理解せよ、それから話し合おうではないか。

なぜ、私たちを獣のように見なすのか。あなたのために地が見捨てられ、岩がその場所から移されるだろうか。
神に逆らう者の灯はやがて消え、炎はもはや輝かず、天幕は暗黒となり、照らす光は消える。ああ、これが不正を行った者の住まい、これが神を知らぬ者のいた所か、と。

19)ヨブは答えた。
どこまであなたたちは私の魂を苦しめ、言葉をもって私を打ち砕くのか。侮辱はもうこれで十分だ。私が過ちを犯したのが事実だとしても、その過ちは私個人にとどまるのみだ。ところが、あなたたちは私の受けている辱めを、誇張して論難しようとする。 それならば知れ。神が私に非道なふるまいをしていることを。私は全てに忌み嫌われ、愛していた人々にも背かれてしまった。骨は皮膚と肉とにすがりつき、皮膚と歯ばかりになって私は生き延びている。
私を憐れんでくれ。あなたたちは私の友ではないか。 なぜあなたたちまで神と一緒になって、私を追い詰めるのか。
どうか私の言葉が書き留められるように。
私は知っている、私を贖う方は生きておられ、ついには塵の上に立たれるであろう。この皮膚が損なわれようとも、この身をもって私は神を仰ぎ見るであろう。

この有様の根源が私自身にあるとあなたたちは言う。あなたたちこそ、剣を危惧せよ。剣による罰は厳しい。裁きのあることを知るがよい。

20)ナアマ人ツォファルは答えた。
さまざまな思いが私を興奮させるので反論せざるをえない。あなたの説は私に対する非難と聞こえる。
神に逆らう者の喜びははかなく、神を無視する者の楽しみはつかの間にすぎない。神の怒りの日に、洪水が起こり大水は彼の家をぬぐい去る。

21)ヨブは答えた。
どうか、私の言葉を聞いてくれ。聞いてもらう事が私の慰めなのだ。

私は人間に向かって訴えているのだろうか。なぜ、我慢しなければならないのか。

なぜ、神に逆らう者が生き永らえるのか。彼らは幸せに人生を送り、安らかに陰府に赴く。彼らは神に向かって言う。「ほうっておいてください。あなたに従う道など知りたくもない。なぜ、全能者に仕えなければならないのか。神に祈って何になるのか。」 彼らは財産を手にしているではないか。

神に逆らう者の考えは私から遠い。

しかし神に逆らう者の灯が消され災いが襲い、神が怒って破滅を下した事が何度有ろうか。
「人が神に知識を授けえようか。彼は高きにいまし、裁きを行われる」と言う。ある人は、死に至るまで不自由なく安泰、平穏の一生を送る。また、ある人は死に至るまで悩み嘆き幸せを味わうこともない。だが、どちらも塵に横たわれば等しく、蛆に覆われるではないか。

あなたたちは私に対して悪をたくらんでいるのだ。「あの高潔な人の館はどうなり、この神に逆らう者の住まいとした天幕はどうなったのか」とあなたたちは問う。通りかかる人々に尋ねなかったのか。両者の残した証しを否定することは出来ないであろう。
悪人が災いの日を免れ怒りの日を逃れているのだ。あなたたちの反論は欺きにすぎない。

22)テマン人エリファズは答えた。
人間が神にとって有益でありえようか。賢い人でさえ有益でありえようか。あなたが神を畏れ敬っているのに、神があなたを責めあなたを裁きの座に引き出されるだろうか。あなたは甚だしく悪を行い、限りもなく不正を行ったのではないか。

あなたは兄弟から質草を取って何も与えず、裸の人からなお着物をはぎ取った。だからこそあなたの周りには、至るところに罠がある。
あなたは言う。「神がいますのは高い天の上で、見よ、あのように高い星の群れの頭なのだ。」
だからあなたは言う。「神が何を知っておられるものか。濃霧の向こうから裁く事が出来ようか。 雲に遮られて見ることもできず、天の丸天井を行き来されるだけだ」と。

あなたは悪を行う者の歩んだ道に気をつけよ。神に向かって彼らは言っていた。「ほうっておいてくれ全能者と呼ばれる者に何が出来る。」 それに対してあなたは言った。「神はその彼らの家を富で満たされる。神に逆らう者の考えは私から遠い。」 神に従う人なら見抜いて喜び、罪のない人なら嘲笑って言うであろう。「彼らの財産は確かに無に帰し、残ったものも火になめ尽くされる。」
神に従い、神と和解しなさい。そうすればあなたは幸せになるだろう。あなたは元どおりにしていただける。

23)ヨブは答えた。
どうしたらその方を見いだせるのか。おられるところに行けるのか。その方は強い力を振るって、私と争われるだろうか。いや、私を顧みてくださるだろう。そうすれば私は神の前に正しいとされ、私の訴えはとこしえに解決出来るだろう。

だがどこに行っても神はいない。

しかし神は私の歩む道を知っておられるはずだ。私の足はその方に従って歩み、その道を守って離れたことはない。神は望むがままに行われる。それゆえ、私は御顔におびえ、考えれば考えるほど恐れる。暗黒を前にし、目の前には闇が立ちこめているのに、なぜ滅ぼし尽くされずにいるのか。

24)なぜ、神を愛する者が神の日を見る事が出来ないのか。
人は地境を移し、家畜の群れを奪って自分のものとし、孤児のろばを連れ去り、寡婦の牛を質草に取る。かわいそうな人たちうんぬん、神はその惨状に心を留めてくださらない。
光に背く人々がいる。悪人うんぬん。
「大水に遭えば彼はたちまち消え去る、勧善懲悪」
だが、そうなってはいないのだから、誰が私をうそつきと呼び、私の言葉をむなしいものと断じる事が出来ようか。

25)シュア人ビルダドは答えた。
恐るべき支配の力を神は御もとにそなえ、天の最も高いところに平和を打ち立てられる。どうして人が神の前に正しくありえよう。人間は蛆虫人の子は虫けらにすぎない。

26)ヨブは答えた。
あなた自身はどんな助けを力のない者に与え、どんな救いを無力な腕にもたらしたというのか。誰の言葉を取り次いで語っているのか。
神は御力をもって海を制し英知をもってラハブ(竜=レビアタン)を打たれた。だが、これらは神の道のほんの一端。神について私たちの聞きえることはなんと僅かなことか。

27)ヨブは更に言葉をついで主張した。
私の権利を取り上げる神にかけて誓う。私の息がまだ残っているかぎり この唇は決して不正を語らず、この舌は決して欺きを言わないと。断じてあなたたちを正しいとはしない。死に至るまで潔白を主張する。
暴虐な者が全能者から与えられる嗣業は、次のとおり。たとえ多くの息子があっても、剣にかかり子孫は食べ物にも事欠く、うんぬん。

28)銀は銀山に産し金は金山で精錬する。人は暗黒の果てまでも行き鉱石を捜す。 では、知恵はどこに見いだされるのか。その道を知っているのは神。神は地の果てまで見渡し天の下、全てのものを見ておられる。神は知恵を見、人間に言われた。「主を畏れ敬うこと、それが知恵悪を遠ざけること、それが分別。」

29)ヨブは言葉をついで主張した。
どうか過ぎた年月を返してくれ、神に守られていたあの日々を。
私は繁栄の日々を送っていた。あのころ、全能者は私と共におられ、子らは私の周りにいた。豊かであった。若者らは私を見て静まり、老人らも立ち上がって敬意を表した。私が身寄りのない子らを助け、助けを求める貧しい人々を守ったからだ。

こう思っていた「私は家族に囲まれて死ぬ。人生の日数は海辺の砂のように多いことだろう。」 私は首長の座を占め、軍勢の中の王のような人物であった。

30)だが今は若い者らが私を嘲笑う。私は知っている。あなたは私を死の国へ連れ戻そうとなさっているのだ。私は苦境にある人と共に泣かなかったろうか。貧しい人のために心を痛めなかったろうか。私は幸いを望んだのに、災いが来た。光を待っていたのに、闇が来た。

31)上から神がくださる分は何か、高きにいます全能者のお与えになるものは何か。不正を行う者には災いを、悪を行う者には外敵をお与えになるではないか。神は私の道を見張り、私の歩みを全て数えておられるではないか。
私がむなしいものと共に歩き、この足が欺きの道を急いだことは決してない。あらゆる悪いことをしたことがない。もしあるというなら 小麦の代わりに茨が生え大麦の代わりに雑草が生えてもよい。
ヨブは語り尽くした。

32)ここで、三人は答えるのをやめた。ヨブが自分は正しいと確信していたからである。
さて、エリフは怒った。この人はブズ出身でラム族のバラクエルの子である。ヨブが神よりも自分の方が正しいと主張するので、彼は怒った。また、ヨブの三人の口から何の反論も出ないのを見たので怒ったのである。
エリフは言った。
「いい知恵がある。彼を負かすのは神であって人ではないと言おう」などと考えるべきではない。私は誰の顔を立てようともしない。人間にへつらうことはしたくない。気づかずにへつらうようなことを言ったら、どうか造り主が直ちに私を退けてくださるように。

33さてヨブよ、私の言葉を聞き私の言うことによく耳を傾けよ。「私は潔白で、罪を犯していない。私は清く、咎められる理由はない。」ここにあなたの過ちがある、と言おう。神はそのなさることをいちいち説明されない。

苦痛に責められて横たわる人があるとする。千人に一人でもこの人のために執り成し、その正しさを示すために遣わされる御使いがあり、彼を憐れんで
「この人を免除し、滅亡に落とさないでください。代償を見つけて来ました」と言ってくれるなら、彼の肉は新しくされるであろう。再び神はこの人を正しいと認められるであろう。
「私は罪を犯し正しいことを曲げた。それは私のなすべきことではなかった。しかし神は私の魂を滅亡から救い出された。私は命を得て光を仰ぐ」と。まことに神は人間のために、二度でも三度でもその魂を滅亡から呼び戻し命の光に輝かせてくださる。

34)エリフは更に言った。
ヨブはこう言っている。「私は正しい。だが神はこの主張を退けられる。私は正しいのに、うそつきとされ、罪もないのに矢を射かけられて傷ついた。」
ヨブのような男がいるだろうか。水に代えて嘲りで喉をうるおし、悪を行う者にくみし、神に逆らう者と共に歩む。
「神に喜ばれようとしても何の益もない」と彼は言っている。

神には過ちなど、決してない。神は全知全能である。身分の高い者をひいきすることも、貴族を貧者より尊重することもないお方、御手によって全ての人は造られた。 人も瞬く間に、しかも真夜中に死んでいく。権力ある者は身を震わせて消え去り、力ある者は人の手によらず退けられる。神は人の歩む道に目を注ぎ、その一歩一歩を見ておられる。

悪を行う者が身を隠そうとしても、暗黒もなければ死の闇もない。人は神の前に出て裁きを受けるのだが神はその時を定めてはおられない。国に対してであれ人間に対してであれ。 神は、神を無視する者が王となり、民を罠にかける事がないようにされる。

人が神に対してこう言ったとする。「私は罰を受けました。もう悪いことはいたしません」
この言葉にどう報いるかを決めるのはあなたか。あなたは神を軽んじているではないか。

「ヨブはよく分かって話しているのではない。その言葉は思慮に欠けている。 悪人のような答え方をヨブはする。彼を徹底的に試すべきだ。過ちに加えて罪を犯し、私たちに疑惑の念を起こさせ神に向かってまくしたてている。」

35)エリフは更に言った。
「神は私を正しいとしてくださるはずだ」とあなたは言っているが、あなたのこの考えは正当だろうか。
またあなたは言う。「私が過ちを犯したとしても、あなたに何の利益があり、私にどれほどの得があるのか。」

あなたが逆らってもそれはあなたと同じ人間に、あなたが正しくてもそれは人の子に係わるだけなのだ。
抑圧が激しくなれば人は叫びをあげ、権力者の腕にひしがれて助けを求める。

しかし、誰も言わない「どこにいますのか、私の造り主なる神、夜歌を与える方 地の獣によって教え、空の鳥によって知恵を授ける方は」と。
だから、叫んでも答えてくださらないのだ。悪者が高慢にふるまうからだ。あなたは神を見る事が出来ないと言うがあなたの訴えは御前にある。あなたは神を待つべきなのだ。今はまだ怒りの時ではなく、神はこの甚だしい無駄口を無視なさるので、ヨブは空しく口数を増し、愚かにも言葉を重ねている。

36)エリフは更に言葉を続けた。
まことに神は力強く、知恵に満ちておられる。神に逆らう者を生かしてはおかず、貧しい人に正しい裁きをしてくださる。

神を無視する心を持つ者は鎖につながれていても怒りに燃え、助けを求めようとしない。彼らの魂は若いうちに死を迎え、命は神殿男娼のように短い。
神は貧しい人をその貧苦を通して救い出し、苦悩の中で耳を開いてくださる。神はあなたにも苦難の中から出ようとする気持を与え、苦難に代えて広い所でくつろがせ、あなたのために食卓を整え、豊かな食べ物を備えてくださるのだ。あなたが罪人の受ける刑に服するなら、裁きの正しさが保たれるだろう。

苦難を経なければ、どんなに叫んでも力を尽くしても、それは役に立たない。警戒せよ悪い行いに顔を向けないように。苦悩によって試されているのは、まさにこのためなのだ。まことに神は力に秀でている。神は水滴を御もとに集め、霧、雨、雲、海、諸国、食べ物、稲妻を制御する。

37)それゆえ、私の心は破れんばかりに激しく打つ。聞け、神の御声のとどろきを。雪には、「地に降り積もれ」雨には、「激しく降れ」と。
人の手の業を全て封じ込め、全ての人間に御業を認めさせられる。獣、嵐、水、雲、懲らしめのためにも、大地のためにも、そして恵みを与えるためにも、神はこれを行わせられる。

ヨブよ、耳を傾け、神の驚くべき御業についてよく考えよ。あなたは知っているかどのように神が指図して、密雲の中から稲妻を輝かせるかを。あなたは知っているか、完全な知識を持つ方が、垂れこめる雨雲によって驚くべき御業を果たされることを。
南風が吹いて大地が黙すときには、あなたの衣すら熱くなるというのに 鋳て造った鏡のような堅い大空を、あなたは神と共に固める事が出来るとでもいうのか。暗黒を前にして、私たちに何の申し立てが出来ようか。人間が何か言ったところで、神が言い負かされるだろうか。 今光は見えないが、それは雲のかなたで輝いている。やがて風が吹き雲を払うと 北から黄金の光が射し、恐るべき輝きが神を包むだろう。全能者を見いだすことは私たちには出来ない。神は優れた力をもって治めておられる。憐れみ深い人を苦しめることはなさらない。それゆえ人は神を畏れ敬う。人の知恵は全て顧みるに値しない。

38)主は嵐の中からヨブに答えて仰せになった。
これは何者か。知識もないのに、言葉を重ねて神の経綸を暗くするとは。男らしく、腰に帯をせよ。私はお前に尋ねる、私に答えてみよ。

私が大地を据えたときお前はどこにいたのか。知っていたというなら理解していることを言ってみよ。
誰がその広がりを定めたか、誰がその上に測り縄を張ったのか、基の柱はどこに沈められたのか、誰が隅の親石を置いたのか。

そのとき、夜明けの星はこぞって喜び歌い、神の子らは皆喜びの声をあげた。海は二つの扉を押し開いてほとばしり、母の胎から溢れ出た。私は密雲をその着物とし、濃霧をその産着としてまとわせた。しかし、私はそれに限界を定め、二つの扉にかんぬきを付け、「ここまでは来てもよいが越えてはならない。高ぶる波をここでとどめよ」と命じた。
朝日、大地、海の深遠、大地の広がり、光と暗黒。雪、霰、光、東風、豪雨、稲妻、雨、霰、霜、すばる、オリオン、銀河、大熊、子熊、雨雲、洪水、鴇、雄鶏、雌獅子、烏、雛、

39)山羊、雌鹿、ろば、野牛、駝鳥、こうのとり、馬、鷹、鷲。

40)ヨブに答えて、主は仰せになった。「全能者と言い争う者よ、引き下がるのか。神を責めたてる者よ、答えるがよい。」
ヨブは主に答えて言った。「私は軽々しくものを申しました。どうしてあなたに反論などできましょう。もう主張いたしません。」
主は嵐の中からヨブに答えて仰せになった。「男らしく、腰に帯をせよ。お前に尋ねる。私に答えてみよ。

お前は私が定めたことを否定し、自分を無罪とするために、私を有罪とさえするのか。お前は神に劣らぬ腕をもち、神のような声をもって雷鳴をとどろかせるのか。威厳と誇りで身を飾り、栄えと輝きで身を装うがよい。怒って猛威を振るい、全て驕り高ぶる者を見ればこれを低くし 全て驕り高ぶる者を見ればこれを挫き、神に逆らう者を打ち倒し、一人残らず塵に葬り去り、顔を包んで墓穴に置くがよい。
そのとき初めて私はお前をたたえよう。お前が自分の右の手で勝利を得たことになるのだから。
見よ、ベヘモットを。お前を造った私はこの獣をも造った。これは牛のように草を食べる。見よ、腰の力と腹筋の勢いを、うんぬん。
お前はレビヤタンを鉤にかけて引き上げ、その舌を縄で捕えて屈服させる事が出来るか。」

41)天の下にある全てのものは私のものだ。彼のからだの各部について、私は黙ってはいられない。力のこもった背と見事な体格について、うんぬん。
この地上に、彼を支配する者はいない。彼はおののきを知らぬものとして造られている。驕り高ぶるもの全てを見下し、誇り高い獣全ての上に君臨している。

42)ヨブは主に答えて言った。
あなたは全能であり御旨の成就を妨げることは出来ないと悟りました。
「これは何者か。知識もないのに神の経綸を隠そうとするとは。」
そのとおりです。私には理解できず、私の知識を超えた驚くべき御業をあげつらっておりました。
「聞け、私が話す。お前に尋ねる、私に答えてみよ。」
 あなたのことを、耳にしてはおりました。しかし今、この目であなたを仰ぎ見ます。それゆえ、私は塵と灰の上に伏し、自分を退け悔い改めます。

主はこのようにヨブに語ってから、テマン人エリファズに仰せになった。
「私はお前とお前の二人の友人に対して怒っている。お前たちは、私について私の僕ヨブのように正しく語らなかったからだ。しかし今、雄牛と雄羊を七頭ずつ私の僕ヨブのところに引いて行き、自分のために生贄をささげれば、私の僕ヨブはお前たちのために祈ってくれるであろう。私はそれを受け入れる。お前たちは私の僕ヨブのように私について正しく語らなかったのだが、お前たちに罰を与えないことにしよう。」

テマン人エリファズ、シュア人ビルダド、ナアマ人ツォファルは行って、主が言われたことを実行した。そして、主はヨブの祈りを受け入れられた。

ヨブが友人たちのために祈ったとき、主はヨブを元の境遇に戻し、更に財産を二倍にされた。 兄弟姉妹、かつての知人たちがこぞって彼のもとを訪れ、食事を共にし、主が下された全ての災いについていたわり慰め、それぞれ銀一ケシタと金の環一つを贈った。 主はその後のヨブを以前にも増して祝福された。ヨブは、羊一万四千匹、らくだ六千頭、牛一千くびき、雌ろば一千頭を持つことになった。 彼はまた七人の息子と三人の娘をもうけ、 長女をエミマ、次女をケツィア、三女をケレン・プクと名付けた。 ヨブの娘たちのように美しい娘は国中どこにもいなかった。彼女らもその兄弟と共に父の財産の分け前を受けた。 ヨブはその後百四十年生き、子、孫、四代の先まで見る事ができた。 ヨブは長寿を保ち、老いて死んだ。 Copyright: 日本聖書協会

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