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2016年6月25日土曜日

「ロード・ジム」について

「闇の奥」解説をアップした。

コンラッドの代表作の「ロード・ジム」は、闇の奥とほぼ同じ構成を持つ

闇の奥:世評の高い理想主義者が奥地で自分の王国を持つ。彼は欲望の溺れて死ぬ
ロード・ジム:悪評を見に受けた人物が現世を逃避して奥地に行き、そこで王として祭り上げられる。かれは人々のために最善を尽くした上で、不運にも死ぬ。

真逆、つまり構成としては同じなのである。

ちなみにマーロウという人物が語る作品は三作ある。
「青春」
「闇の奥」
「ロード・ジム」である。
最初に書かれた「青春」は、台風で船に侵入してくる水を掻き出し、その後積んでいた石炭が燃え出したので、逆に水を船に入れてゆく、というドタバタしたストーリーである。おそらく「闇の奥」と「ロード・ジム」の構成の対称性を、「青春」を書くときから構成していたのであろう。構成力のある作家である。

このようにコンラッドは明らかに技術の高い作家であり、後世多大な影響を与えたが、正直私には魅力が無いのである。しかし絶対に無視できないし、もっと研究され、消化されてしかるべき存在だとは思う。コンラッドはポーランド生まれでありながら、英文学の作家であり、そして今日の世界は英語世界であるからである。

李白が漢民族ではないと言う仮説は、かなり以前から出されている。陶淵明がイ族あるいはミャオ族出身という説も聞いたことがある(どちらかだったか忘れた)。阿倍仲麻呂は無論、日本出身である。中華帝国におけるかれらのような位置を占めるのが、大英帝国におけるコンラッドのようである。

しかしわたしにとって読みやすい作家ではないので、コンラッド研究は「闇の奥」一作で終わりである。だれかもっと研究されてくださる方が入ればよいのだが。

なんどもこのBlogで書いていることだが、作品研究の要点は、過去の研究書を読むことでもなく、時代背景を読むことでもない。作品の内部構成と、その作品の下敷きとなった過去の作品を探ることである。そして過去の作品はみつからなきゃ仕方が無いと諦めるしか無いが、内部構成は回数読むことによって、人間に可能な限界値まで読み込むことが出来る。章立て表、登場人物一覧表を作れば回数読む手間も大幅に削減できる。

なんだか馬鹿みたいな話だが、これほど文学を研究している碩学が大量に存在しながら、このように作品を徹底的に読み込む作業は、ほとんどなされていない。つまり歴史上重要な文学の作品の内容は、ほとんど研究されていないと言って過言でない。

「カラマーゾフ」しかり、「人間失格」しかり「豊饒の海」しかりである。自慢ではない。読者にお考えいただくために言っている。