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2025年6月17日火曜日

核とダラーと敗北の作法

今のイラン

https://youtu.be/yMIiePVCYrs?si=a2i6q0T6osluh4_b&t=345

イラン人の学者が、ここで日本人のIAEA事務局長のエピソードを語っているのは、一つにはIAEAの実情を語るためだが、一つにはイスラエルを非難したのは日本だけだからである。
もっとも本日のG7では共同声明に加わったようだが。

要するに、仲裁役を求めている。だが彼は忘れている。安倍晋三はもう居ない。

該当する事務局長は、

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E9%87%8E%E4%B9%8B%E5%BC%A5

である。病死らしいが死因はわからない。


なぜアメリカは中東にこだわるか

イスラエルロビーの強力さについては皆ご存じの通り。「福音派」のメンタリティーについてもご存じの通り。しかしアメリカの中東への関与の最大の目的は、「ドルの維持」である。ドルの地位が落下することはトランプも覚悟している。しかしその落下速度を遅らせたい。だから中近東諸国を歴訪していた。なぜ中近東を歴訪するとドルを維持できるか。

1945年にブレトンウッズ体制が発効し、アメリカの金本位制に基づいた国際通貨体制が確立した。しかしアメリカはベトナムで苦戦した。ただでさえドイツと日本に対する貿易赤字に苦しんでいたアメリカに、フランスからの金交換の要求が襲い掛かった。ベトナムは旧フランス領で、アメリカが戦争するとなぜかフランスにドルが溜まった。アメリカにとって不運なことに、当時のフランス大統領はド・ゴールという名の人物で、「全部金に換えたらアメリカさんは困るだろうな」とは一秒も考えないキャラだった。毎月きっちり手持ちのドルを金と交換していった。よってニクソンは金本位制を放棄した。ブレトンウッズ体制の崩壊である。1971年である。ブレトンウッズは26年しか持たなかったのである。

以降は管理通貨体制である。ドルの圧倒的な力はなくなるかに思えた。1974年、アメリカはサウジアラビアにキッシンジャーを派遣して、アメリカの武器を売ってあげる代わりに、石油をドルで売ってもらう約束を取り付けた。なんのことはない実態は石油と武器の物々交換なのだが、なにしろ石油も武器も重要品目である。それを大規模に取引することで、ドルは国際通貨の地位を維持できた。

トランプが最近中東を歴訪したのも、だからドルを維持するためである。湾岸諸国は石油を売り、アメリカは武器を売る。その体制をしっかり作っておけば、イスラエルに対して強く出れる。イスラエルの無茶ぶりに心から同感している人間なぞ、居るわけが無い。でもイスラエルロビー、福音派以上に、ドル問題が大きいのである。

アラブ産油国が中東戦争の結果に不満で、イスラエルの支持国に圧力をかけるために石油を武器化した。それがオイルショックである。それら産油国をなだまるためにアメリカは武器を供給した。ひとつにはアメリカと、つまりイスラエルと同レベルの武器を持たせれば、イスラエルは容易に攻撃できない。しかしイスラエルとしてはたまったものではない。周辺諸国の軍事力が増強されて喜ぶ国なんぞない。アメリカ政界にたいする工作を強め、やがて今日のような強力なロビー力を手にするにいたった。

で、中近東訪問によってペトロダラー体制の盤石化に成功したトランプが打つ次の手は、イスラエルと距離をとる方向になる。というのが当然の流れなので、ネタニヤフはこのタイミングしかないと思い、イランを攻撃した。アメリカは本当はもうイスラエルを切り捨てたい。でも切り捨てられない。なぜなら、

1、イスラエルがイランに敗けるということは、アメリカ製兵器が他国兵器に敗ける、ということである。つまりアメリカ製兵器の価値が地に落ちる。

2、さらにイランがペルシャ湾を閉鎖すると、湾岸諸国の石油が輸出できない。兵器が売れない、石油を買えない、つまりペトロダラーが終わる。

ではイスラエルを助けるのか。勝敗ははっきりしている。イスラエルの背後にはアメリカ、イランの背後には中国、背後の両国の工業生産力が勝敗を分ける。イランが勝つに決まっている。勝てない、しかし放置できない、こういう時思い切りよく放棄するか、粘り強く戦うかの判断は難しい。おそらく、ペトロダラーを諦めてイスラエルを放棄したほうが国家運営としては成算が高い。しかしもう米軍はイスラエルに協力態勢である。ずるずると引きずり込まれて落ちてゆくだろう。

悪魔の選択

となると次なる選択は、イスラエルの核兵器の使用になる。このまま通常兵器の戦闘で推移しても勝ち目はない。イランに核兵器を落とすしかないのだが、核兵器を落としても勝つかどうかはあやしい。テヘラン1000万の人間を皆殺しても、イランには8000万の人口が残る。イスラエルの人口は1000万程度である。そして、例えば中国やロシアが核を使ったイスラエルを非難して、イスラエルに核を落としても、アメリカは決して核による反撃はできない。既に核戦力では中露合わせた方が有利だからである。

そして石破だろうが岩屋だろうが、核を使えば日本は確実にアンチイスラエルの方向に向かう。ヨーロッパも流石にイスラエルから距離を置く。要するに、核を使わなければイスラエルの負け、核を使ってもイスラエルの負けである。なんとも無残な結論である。ネタニヤフとしては、ガザの制圧に時間がかかり過ぎたのが全てだった。女子供の虐殺は出来ても、戦闘員を消し切れなった。もうどうやっても勝ち目はないのである。

アメリカとしても無論イスラエルに核は使ってほしくない。最近トゥルシー・ギャバード国家情報局長官が広島の体験を語っていたのは、ようはイスラエルに核使用の自制を求めるためである。だがしかし、アメリカが本格的にイスラエルに肩入れするならば、その後の事態も読んでおかなければならない。

イスラエルがどのみち敗けるならば、核を使わずに負けるよりも、核を使って負けたほうが良い。イスラエルの国家としての正当性が失われるから、切り捨てやすくなる。福音派も説得しやすくなる。どのみちペトロダラー体制が終焉するなら、イスラエルはただのお荷物になる。悪党であってくれたほうが、振りほどきやすい。となるとどん詰まったトランプがイスラエルの核使用を黙認する可能性は、残念ながらかなり有る。

もっともそれは溺れるから藁をつかむから一層溺れる負の連鎖である。イスラエルの核は、アメリカの使用した三発目の核とほぼ同義である。アメリカの国家としての正当性もイスラエルと同時並行的に地に落ちる。ペトロダラー喪失のショックでトランプが近視眼的にならないことを祈るだけである。

イスラエルの人々に言いたいのは、負ける時には上手に負けるべきである、ということである。こんな事を本気で考える人間は、日本人以外にはほどんど存在していないと思う。だからユダヤ人が聞けば信じられなくて怒りだすかもしれないが、それでも私は優しい日本人だから、怒りに触れる可能性があっても親身に考えている。

日本は敗戦した。負けた。負け方としては、かなり上手だったと思っている。責任者は逃げなかった。腹を切った人も居る。ピストルでやった人も居る。だから日本的には「ネタニヤフ一人が腹を切れば」という文章になるが、ユダヤ人がどう考えるかわからない。だがともかくも世界を相手に大芝居打てたのだから、これはこれで良しとしなければならない。ネタニヤフがどうしても死にたくない場合、(ゼレンスキーのウクライナと同様に)事態はやっかいになる。ウクライナはまだ国土が広い。イスラエルは狭い。凄惨な残敵掃討の市街戦になりうる。それを救いたいならばなんとか詰め腹を切らさなければならない。核をつかわず、ハイスピードに負ければ、リベンジのチャンスはまた来る。使えばユダヤ人が世界の嫌われ者になり、居場所がなくなる。どうするかは当事者が決めることだが。

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