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2025年3月20日木曜日

「かもめ」読解顛末

 読解は筋力は使わないが体力は使う


作品を読解すると、頭が少しすっきりする。わけのわからないものを、わけがわかるようにすると、頭は負担が減ってどんよりした感じが少し減る。しかし、頭の良い人が自分の頭を使って整理するのと、私の読解は少し違う。やみくもな表計算ソフトへの打ち込みの肉体労働でもって能力もないのに無理やり整理する。結果は同じで頭はすっきりするが、実は体力を消耗している。消耗の仕方の表現が難しく上手く言えないのだが、体の芯からエネルギーが抜けてゆく感じがある。

期間的に見れば、漱石シリーズやっていた2021年あたりが一番ハードだった。どうなるかと言えば、トイレが近くなる。おなかから力が抜けた結果、大きい方に毎日二桁台という状況に成り下がった。最近ようやく少し改善した。一時の快楽は高い代償を支払うのである。

作品単品では太宰治「斜陽」が最も体力を使った。自分の内部エネルギーがみるみる減ってゆくのが自覚出来た。人間の体というか元気は、かなりの部分言葉で出来ている。ストーリーが人間を組み立てている。「斜陽」を読むために、恐らく無意識に一度自分の内部の言葉を解体し、再構成したのだろう。結果読解は出来たが、太宰の言葉解体能力と、私の言葉再構成能力には、遺憾ながら大きな差が有った。私は太宰に壊され、復旧にたいそう手間取ったのである。

ところが「斜陽」は、チェーホフの作品が元になっている。「桜の園」を指す場合が多いようだが、「斜陽」の中心がチドリであるならば、「かもめ」も十分参照しているはずである。いわばチェーホフは、私の健康破壊軍団のボスキャラである。今回健康破壊に十分注意しながら読解をすすめていった。予備運動として「ダロウェイ夫人」の読み解きやった。似たようなグジャグジャ系だと思ったからである。その上で「かもめ」にとりかかった。

しかし、やはり、敵は強大だった。段々疲労が溜まっていった。足の調子が悪いなあと思っていた。左足踵限定足底筋膜炎状態になった。

ある日少し風邪をひいた。軽かった。その日は仕事は出来た。大丈夫だなと安心したら翌日さらにひどくなった。休んで病院に行った。コロナでもインフルエンザでもなかった。安心した。薬をもらったので飲んだ。痛み止めだが、楽になってよく寝れた。でも寝ても発熱が収まらなかった。40度を超えた。でも痛み止めのおかげで安眠していた。2日ほど寝倒して、熱はあっても元気なのでシャワーを浴びれた。その時初めて気が付いた。全身吹き出物に覆われていた。

鏡を見れば顔中ボツボツである。別の医者に行った。薬の副反応だろうということだった。私は過去に、薬でそんな激烈な副反応を起こしたことは無い。幸いなことに吹き出物は全く痒くなかった。とりあえず薬を変えた。そのせいかどうか、増加も止まった。やがて熱は引いた。元気はないが不快さもない。見た目が悪いだけである。2週間ほどでだいたい治った。2月下旬の出来事である。今でもカサブタはかなり有る。

その時間

やっぱりチェーホフは難物である。でもよい体験もできた。本日は2025/3/20だが、10日ほど前のある日の午後3時~5時の間、その時間があった。「その時間」とは溜めていた知識と解釈が有機的に結びついて、全体の内容が見渡せる始める、そういう時間である。見渡せるというとスカっとさわやかな感じだが、体感的には体内部のシコリのようなものがみるみる融解してゆく感じである。こういう意味不明作品で引っかかるのは大抵ラスト近辺なのだが、視点が冒頭まで及んで、全体の中で細部を考える時間、疑問が氷解してゆく時間、主体的に考えると言うより受動的に霧が晴れてゆく時間、それは作品読解の際には多かれ少なかれ有るのだが(大抵寝っ転がっていると来る)、2時間というまとまった量で体感できたのは初めてである。至福だった。

20代の時、似た体験が実は一度あった。同じように夕方だった。9月くらいの秋の日だった。西日が強かったのを憶えている。なぜか「貨幣」について陶酔の30分を過ごして、結論が出た。貨幣は増え続けるものであると。

他の人はこんな体験をしているのか。岡田英弘が、魯迅だったか誰だったか、伝統中国における勉強について書いていた。中国の識字階級の少年は、センテンスを無理やり暗記させられる。暗記しているので書けと言われれば書ける。でも実は意味はさっぱりわからない。意味がわからない文字列を、大量に詰め込まれる。

そしてある日、その時間が来る。ふと「あの文章のあの場所は、実はこんな意味なのではないか」と思う。するとそこから類推して、別の文章のあの場所、また別の文章と、考えが広がって、それこそ溶けるように意味を理解してゆく。そして1週間後(だったか1か月後だったか)、全ての文章の意味がわかった。多分これは、私の体験の大幅拡大バージョンである。

元気

「かもめ」はどうしようもなく、元気がない。チェーホフが読書の中で、「その時間」を何度体験したのかはわからない。だが病的なレベルでしていただろうな、と今では思っている。対して「斜陽」はえらく元気である。私の体力は消耗したが、太宰の体力も消耗しただろうが、主人公は不倫の子を産んで元気一杯で開き直る。太宰は(犯罪スレスレの人間にありがちなことだが)開き直りの名人である。

「この世の中に、 戦争だの平和だの貿易だの組合だの政治だのがあるのは、なんのためだか、このごろ私にもわかって来ました。あなたは、ご存じないでしょう。だから、いつまでも不幸なのですわ。それはね、教えてあげますわ、女がよい子を生むためです」

ロシアの運命はその後も大変だったが、現在はとにかく父を回復し、ちょっと強すぎる父かもしれないが、国家としての力を取り戻した。日本は「母の国」である。母は回復するのか。私は回復すると思っている。私の見るところ、現代女性の最大のストレスはAI社会への対応である。それさえ乗り切れれば、母は戻ってくるだろうと思っている。


2025年1月30日木曜日

DeepseekとChatGPT比較

DeepSeek

第4巻:『天人五衰』(1970年)

主人公:安永透(やすなが とおる)、本多繁邦

あらすじ:昭和後期、本多繁邦は老人となり、安永透という少年に出会います。透は清顕や勲、月光姫の生まれ変わりと信じられていますが、彼は自己中心的で冷酷な性格です。本多は透を養子にしますが、透は本多を裏切り、彼の財産を奪おうとします。最後に透は自殺を図り、本多は輪廻転生の虚しさを悟ります。物語は、本多が老いと孤独の中で人生の意味を問う場面で終わります。


Chat GPT

第4巻『天人五衰』(1971年)

老いた本多が、清顕や伊藤の転生であると信じる女性・透(みとお)と出会います。しかし、透は予期された悲劇的な運命を迎えず、生き続けます。本多は自らの信念が破綻する様を見届けることとなり、転生というテーマそのものが否定されるかのように物語は幕を閉じます。この巻は「死」と「空虚」が主題であり、シリーズ全体の結末として読者に哲学的な問いを投げかけます。


三島は電子書籍化されていない。青空文庫にもない。だから間違えやすいとは思う。漢字で書かれた情報は中国のほうが有利だとも思う。ともかくもこの項目に関してはDeepSeekの圧勝である。

2025年1月9日木曜日

秀吉から家康へ

タイトルと違いますが、まずはこちらをお読みいただきたいです。


https://note.com/fufufufujitani/n/nf6e5408cfb01


和同開珎以来50年ぶりに通貨発行をしようという時、

大仏建立に協力した藤原仲麻呂は、朝廷から通貨発行権を与えられ、

万年通宝を発行します。


それ以降藤原家は常に通貨発行に関係していたと考えられているのですが、

明解な資料は特にありません。藤原家が政治の中心に居た以上そうだろうと見られているだけです。

藤原忠平が乾元大宝の発行に関与した説はあるそうですが、藤原家と貨幣の関係はそれっきりになります。

なぜならば、乾元大宝を最後にそもそも貨幣が発行されなくなったからです。「皇朝十二銭」と言うように、12種類で打ち止めです。

そして藤原氏は方針転換をします。領土を、日本の平安時代の場合には荘園を増やしてゆきます。

全盛期は藤原道長で、日本の荘園の半分程度を所有していたと言われます。貨幣の王から土地の王へ、変化したのです。



似たような変化が近世にも発生しました。秀吉は天下人になりましたが、豊臣家の所領は全国の1割程度でした。そのかわり秀吉は、通貨を乾元大宝以来ひさしぶりに発行しました。通貨発行権により巨大な権力を手に入れました。


秀吉の子の秀頼の時代になっても、豊臣家は通貨発行権は所持していました。それに対抗したのが徳川家です。一時期は同時に発行していました。その後豊臣家を滅亡させましたが、徳川はより大きな権力をめざして、所領も大規模に確保していました。計算の仕方によりますが、だいたい全国の5割近くが徳川家および旗本、親藩のものでした。


そのかわり、通貨発行権のほうは少々脆弱でした。なにしろ金山か枯渇しました。貨幣改鋳でしのぎましたが、諸藩のように紙幣は基本的に発行していません(幕末最終期に出してはいるようですが)。一つには備後水野や越前松平などの親藩、譜代大名から藩札を発行してきましたから、幕府が直接発行すると身内とバッティングしちゃう。だから金貨銀貨専門で260年続けました。なかなかムリゲーでした。そのかわり地面は確保しつづけました。



さてアメリカです。どうしてトランプは領土拡大にこだわるのか。ウクライナ戦争のせいです。それによって押し出されたBRICS通貨のせいです。ドルの覇権は急に崩壊することはありません。ありませんがドルが拡大することも今後基本的にない。藤原忠平→藤原道長の変化、豊臣秀吉→徳川家康への変化が、今世界規模で起こっているのです。