細田守は美大で油絵を学んだ人間である。他に西洋絵画を十分に学習した映画監督といえば、著名なところでは黒澤明が居る。
一般に黒澤の後継者は宮崎駿、宮崎の後継者が細田守というふうに言われているが、西洋絵画の教養という意味では、黒澤と細田が近く、宮崎はやや遠い。
試しに音を消して鑑賞するとよくわかるのだが、黒澤も細田も、西洋絵画、とくにルネサンス絵画の特徴である三角形構図を多用する。
両者は荒事と和事、別の領域の作家だが、音を消した映像から受ける印象は、大変良く似ているのである。一度試していただきたい。宮崎の動く画像での独創性は素晴らしいが、静止画としては実は、ややガチャガチャしているのである。
おおかみこどもの構成要素として
浄土真宗以外には、南総里見八犬伝が考えられる。手元にある設定資料を見ると、雪の男子クラスメイトとして、信道、忠与、仁、礼儀と名前がある。仁・義・礼・智・忠・信は八犬伝に出てくる玉の名前である。
女子の名前は、
信乃、荘子、毛野であるが、
犬塚信乃、犬川荘助、犬坂毛野、
いずれも八犬伝の登場人物である。
人間と犬が交わる物語だから、
八犬伝を参照するには自然ななりゆきである。
八犬伝を参照して浄土真宗を歌い上げる。
過去の物語を参照する際に、
ふつうのひとはひとつの物語を引用する。
複数の物語をドッキングして使えるのは、
相当高度な力量の持ち主である。
細田守はまぎれもなく、後者である。
新しい文化のうち優れたものは必ず、その国の文化の古層をなにがしかのカタチで反映している。日本のアニメは発展を続け、古層を十分に反映できるようになった。ヤマトやガンダムは、漢籍、中国の文芸を基礎にしている。ヤマトのモチーフは、目的地到達の物語という意味で、西遊記そのままである。
ガンダムにはシャアという魅力的な悪役が登場するが、
三国志の曹操によく似たキャラクターである。
戦争なくなったら物語の終わりだから、
未来永劫戦争続ける物語である。
宮崎駿は漢籍ではなく、神道の人である。
もののけ姫、あるいはトトロ。
トトロの基本モチーフは、
母に死に別れて泣くスサノオ(メイ)と、
それに困るさつき(アマテラス)である。
母のイザナミは病院にいるが、これは黄泉の国という意味であろう。
押井守は仏教である。
自我はあるのか、無いのか、
輪廻転生から解脱できるのか、出来ないのか。
仏教の中でも、上部座仏教である。
大乗仏教に基づいたアニメは、私は見たことが無かったが、
おおかみこどもついに登場した。
作中の母親「花」は、人間の姿をしているが、実は阿弥陀如来である。
作中の狼は、人間である。
如来・人間という関係を、ワンランク下げて、
人間・狼という関係で表現している。
雨は結局、仏の道を選ばず畜生道に生きることに決めた。
それでもなお阿弥陀様はその生き方を認めてくれて、
遠くから狼の声に耳を傾けて下さる。
「善人なおもて往生を遂ぐ、いわんや狼おや」
弥陀の本願信ずべし、である