経済学者、マスコミ、官僚および政治家は、消費税増税のような明らかに悪い経済政策を、良い政策と強弁し続けます。なぜなのでしょうか。その実体を明らかにする画期的な証言をご紹介します。
あらすじVer.1
ギリシャ出身の計量経済学者バルファキスさんは、祖国ギリシャに押し付けられる理不尽で残酷な経済政策に腹を立てます。財務大臣となって改善してやろうとします。2015年1月末です。交渉相手のEUの財務大臣やECB(ヨーロッパ中央銀行)やIMFは、明らかに間違った経済政策を押し付けてきます。あんたら馬鹿か。道理で考えてくれ。反発します。
理論的に正しいのはバルファキスのほうですから、かたくなな交渉相手でも徐々に説得できるのですが、なんとそれより早く自国陣営の首相と閣僚が、相手の政治力にあえなく敗北。結局バルファキスが敗れ去ります。2015年7月初旬に辞任。5ヶ月少しの短い財相体験でした(終)。
大阪の陣
日本人的には大阪の陣と考えれば理解しやすいです。バルファキス財相は、真田レベルの大活躍をします。しかし首相が淀君なのです。と言うと淀君に失礼です。アレクシス・チプラス首相が淀君以下の根性なしなのです。5ヶ月の戦いですが、実は最初の1ヶ月で半分以上戦意を喪失しています。3ヶ月で完全にやる気がなくなります。5ヶ月目にはどう有権者をごまかすかしか考えていません。尋常ではない腑抜けさです。いい人なんですが、いい人というのはえてしてそういうものです。
交渉相手の欧州委員会・ECB・IMFの3者をまとめて「トロイカ」と呼びますが、トロイカが理不尽で強硬な主張をするのもなんとなく理解できてしまいます。無体に殴りつけないとどうしようもない部分が、残念ながらギリシャ政府にはあります。しかもこれは伝統的にそうなのです。それでもバルファキスは、このままでは国民が壊滅的な経済状況になるので、孤独に必死に頑張りました。
インサイダーとアウトサイダー
時系列的には物語の中盤4月16日ですが、本の冒頭に置かれているシーンがあります。作品の主題はここです。ワシントンの夜のバーでのローレンス(ラリー)・サマーズとの会談です。
経済学者、1999年よりクリントン政権での財務長官、2001年よりハーバード大学学長、大物です。人呼んで「闇のプリンス」。サマーズはそこで重要な言葉を吐きます。
「バルファキスさん、あなたはインサイダーですか?アウトサイダーですか?」
アウトサイダーは自由な発言ができるが、自由の代償として重要な決定を行うインサイダーから無視される。かたやインサイダーは他のインサイダーとは敵対せず、情報を外のアウトサイダーに漏らすこともしない。その規則を守った報酬として、内部情報へのアクセスと権力者への影響が可能になる。成功は保証できないが。つまりこれはインサイダー世界への勧誘です。メフィストフェレスのご招待です。バルファキスさん少しビビります。
「そうですね、私は生来のアウトサイダーなのですが、ギリシャ国民を助けるためには、インサイダーを演じます。でも交渉相手が国民を助けてくれないとわかったら、ためらいなく内部告発をして外に出ます」
おわかりのようにこれでは、インサイダーとは呼べません。メフィストフェレスさんは手ぶらで帰り、バルファキスさんは神通力を入手できません。そんなわけで5ヶ月少しで財相辞任になりましたが、だからこそ我々はこの作品を読めています。メフィストフェレスさんに引き入れられて、そのまま外部に情報漏らさなくなった人も大量に居そうですね。
裏切り物語
トロイカはギリシャに色んな政治を仕掛けてきます。
1、たらい回し戦法:「この案件はうちの管轄じゃない」とたらい回しにして疲弊させる
2、アップダウン戦法:最初きつく言って落として、次に喜ばせて上げて、次に又きつく言って落として、アップダウン繰り返して段々戦意を削いでゆきます
3、仲間割れ戦法:相手が一枚岩だと手強いので、相互不信に陥るように情報を流してゆきます。
これらの戦法が大変効きます。単にトロイカが上手、というだけでは説明がつかないほどの効果です。コロコロと技が決まってゆき、味方はコロコロと寝返ってゆくのです。ある意味壮観です。大将の突撃命令を受けて奮闘努力の末にジリジリを戦線を押し上げることに成功、しかし振り返ると誰もついてきていない、どころか全体は大幅に後退しています。バルファキスは何度も辞表を書き直しながら5ヶ月がんばりますが、普通なら2ヶ月程度でやめるところです。一方では強大な敵と戦うドラマ、他方では味方が負けてゆくのを見て泣くドラマ、二つのドラマが同時進行で進んでゆくので、大変読み応えがあります。
キャラ紹介・ギリシャ政府
アレクシス・チプラス
政党「シリザ」の党首です。選挙で勝って首相になります。若いです。40歳です。実は経済学の知識がかなり怪しいです。バルファキスと側近パパスが知識注入したのですが、おそらく魂の奥底には染みていません。しかしこの戦いは経済の戦いです。淀君になるわけです
パパス
アレクシスの側近です。パパスがバルファキスの著作を読み、アレクシスに引き合わせました。経済専攻ですから知識はあります。著作を読んでバルファキスに声を掛けるのですから感覚も悪くないです。
人格は普通です。「誰が見てもタダの人なのに、なんとかして威光を示そうとしていた」とは著者のパパス評です。しかし彼がアレクシスを制御していました。パパスを軽視しすぎたのがバルファキス最大の失敗とも言えます。
ドラガサキス
いかにも悪そうな人相です。そして本当に悪人です。著者は最初から不安を抱いていますが、予想通りというか期待通りというか、やっぱり裏切ります。頭は悪くないです。アレクシスよりは経済知識があります。
フリアラキス
ドラガサキスの手下です。バルファキスの近くに配置されます。いかにも腐った人相ですが、実際に性根は腐りきっています。ドラガサキス=フリアラキスのラインをどこまで抑えこめるかがバルファキスの課題だったわけですが、外との戦いに夢中になって怠りました。
ほかにも数名重要人物居ますが、最低限この4人のキャラを把握しておけば国内は大丈夫です。
あらすじ Ver.2
第Ⅰ部:われらが不満の春は続く
第Ⅱ部:決意の春
第Ⅲ部:勝負の終わり
エピローグ
の四部に分かれています。
第Ⅰ部:われらが不満の春は続く
元はと言えば2008年のリーマンショックが原因です。世界的な景気の後退が起きます。ところがユーロという通貨システムは、出来てさほど時間が経っていなかったので、柔軟な対応が出来ない。(EU内で最も経済の弱い)ギリシャ政府は国債の返済ができなくなった。額自体は小さいのだが、このまま放置しておくと、ギリシャにお金を貸しているフランス、ドイツの銀行が連鎖的に吹っ飛び、ヨーロッパは大恐慌に突入する。普通だったら(高橋是清が昔やったように)中央銀行が大量の資金を銀行に貸して、沈静化を待てば良いだけだが、出来たばかりのECB(ヨーロッパの中央銀行)は法的にそれが出来ない。致命的な欠陥制度です。それで「ギリシャ救済」とか銘打って金をかき集めてギリシャに注入。注入したお金は右から左へドイツ、フランスの銀行に払われて、大恐慌は回避されてめでたしめでたし、なのですがギリシャに借金がこってり残されます。
という弱いギリシャをスケープゴートにする戦略が2012年にも繰り返されて、2015年にも三度目が来そうになります。作戦立てたトロイカは悪いことしているので、殺人犯が殺人を重ねるがごとく、どんどん理不尽で悪辣になってゆきます。ウソを塗り隠すためにウソを重ねるのです。ギリシャ国民も気づいて怒り出します。
国民の怒りはグレグジット、つまりEUからのギリシャ脱出に向かいます。相談を受けた経済学者バルファキスは、「いやそれはもったいない。グレグジットをちらつかせながら交渉すれば、トロイカも無茶言わなくなって有利な条件勝ち取れる。向こうだってEU崩壊は怖いのだから」。
政党シリザの党首アレクシス・チプラスは納得します。彼の要請を受けたバルファキスは、交渉の準備としてアメリカからギリシャに帰り、総選挙に出馬します。見事当選してギリシャ政府の財務大臣となったバルファキス、全ヨーロッパ+IMFの強大な敵との戦いに乗り出します。
ホームレスのランブレスから励まされます。
「頑張ってください。私のためではないです。私はもう終わっています。手遅れです。今崖っぷちの人を助けてあげてください」
第Ⅱ部:決意の春
知り合いの経済学者たちはバルファキスの方針を支持してくれます。これは当然です。各国財務大臣に会いにゆきます。ここで変な対応に遭遇します。
バルファキスと二人きりの会談では支持してくれます。「トロイカの方針がおかしいんだ、貴方が正しい」。ところが記者会見にゆくと、突如相手の言うことが180度ひっくり返ります。「ギリシャはトロイカの方針に従うべきだ」と言い出します。そして記者会見が終わるとまた友好的に話しかけてきます。奇っ怪な状況です。
ユーログループという、財相+ECB+IMFの会議に出席します。ここが筆者の主戦場です。連中は「この方針に従え」と高圧的に強要してきます。著者は理論整然と反論します。相手が無茶苦茶な理屈なので当たり前です。少し勝ちをもらっても、すぐに高圧的になります。袋叩きです。
どうも連中ははじめっから「私達の理屈は理屈になっていない」ことを認識できているようです。人々が苦しむとわかっていてそれを強要する連中。不誠実なんてもんじゃありません。悪魔のようです。
ソフト勧誘系のメフィストフェレスを断るくらいですから、ハード強要悪魔にバルファキスは徹底抗戦します。
ロジカルで正しいバルファキスが簡単には攻略できないとふんだトロイカは、背後のギリシャ政府に手を伸ばします。こちらはあっさり上手くゆきます。なにしろ資金力が違います。マスコミはギリシャ政府を一斉非難です。あることないこと書きまくります。読んでると正直日本のマスコミのほうが若干マシとさえ思えます。
裏切りキャラのフリアラキスが、ここぞとばかりに大活躍します。いやな活躍です。当然バルファキス怒り狂います。
となかんとかやっているうちに、気がつけば外交としてはかなり成功、しかしギリシャ政府内は勝手に降伏状況になっています。悲劇的にしてコミカルな状況です。自分以外のみんなが「インサイダー」になってゆくのです。なぜしばしば経済学者やマスコミや官僚や政治家が一般人にもバレバレな嘘を言って自分で自分の人格を傷つけてゆくのか、長年の謎でしたが、この本読むとよくわかります。連中はインサイダーになっているつもりなのです。権力と情報にアクセスできるようになっているつもりなのです。現実には落っこちているのですが、本人の頭の中では登っていると認識されているようです。
そしてそう錯誤させるほどの権力と魅力が、インサイダー世界には確かにあるのです。
第Ⅲ部:勝負の終わり
強力なメフィストフェレスたちの誘惑に、精神的にすっかり負けきったアレクシス・チプラス首相、しかし「ユーロ離脱も辞さない」強硬路線の選挙で勝った以上、簡単に白旗上げるわけにもゆきません。そこで「国民投票」を実施します。
(名目は違いますが)実質的に「グレグジット、つまりユーロ脱退を実行するべきかどうか」という投票です。「国民はおそらくそこまで急進的ではないだろう。強硬路線は否定されるだろう。だからその結果を受けて、私達政府も泣く泣くトロイカに降伏する、というストーリーを作れる」と考えたのです。
なかなか卑劣な作戦です。
ところが悪いことに、ギリシャ国民が勇敢でした。
「もうええわ!イバラの道でも我が道をゆくわ!」。なんと降伏しない派が61%も得票してしまったのです。
アレクシスは後悔します。「ヘマをした」。
結局彼は国民投票の結果を黙殺します。民意に反してトロイカに降伏するのです。バルファキスは辞表を提出します。マスコミからは全てバルファキスが悪かったかのように叩かれます。
でも救いもありました。物語の最初に出会ったホームレス、ランブレスについての情報を耳にします。
「明日、新しいアパートに移るそうです。彼は貴方のことを誇りに思い、これまで以上にあなたを強く支持してゆきたいとのことです」
やるべきことはやれた。言うべきことは言えた。私は、過分な特権に恵まれた人間だったのだと、考えざるをえない。(あらすじ終わり、エピローグは短いので省略)
経済用語
経済の知識が全くないと読み進めるのは難しいです。
3つの言葉を覚えてください。これだけでとりあえずなんとかなります。
1、債務再編
2、プライマリーバランス
3、流動性
1、債務再編
借金がありますが資金繰りがつかず返せません。
「金がなくてかえせんからかえさん」と投げやり言うと流石に相手は怒ります。
「今金がないからしばらく待って。必ず返すから」あるいは
「無理なく返せるように返済スケジュール見直しの相談に乗ってください、必ず返すから」
ならば普通相手は相談にのります。全く返されないより、期間延長でも返済されてゆくほうがマシだからです。
がしかし、トロイカは債務再編を受け入れてくれません。債務再編をしたほうが確実にお金が戻ってくるのです。でも受け入れません。
なぜならばギリシャ程度の規模のカネが帰ってこようとこまいと、トロイカにはどうでもよいことだったからです。トロイカにとって重要だったのは、2008年(7年前)のリーマンショックの時、ドイツフランスの銀行を潰さないために手続上やむなくやったインチキを覆い隠すことだけだったのです。「債権を回収する気のない債権団と交渉する難しさ」と作中何度も書かれています。
2、プライマリーバランス
こちらは日本でもよく話題になりますね。基礎的な収支のことです。
日本は意味なく黒字を目指しておりまして、国民は意味なく厳しい状況ですが、ギリシャはより一層意味のない「プライマリーバランス3.5%」をトロイカに強要されています。「それはかえって経済成長をそこなってしまう。意味がない。結果的に債務が返せなくなる。せめて1.5%にさせてくれ」と交渉するのですが、これまた聞き入れてくれません。
江戸時代のお代官様のような連中です。
3、流動性
これが一番わかりにくいと思います。「資金繰り」という言葉に置き換えて読んでください。「緊急流動性支援」と書いてあると「緊急資金繰り支援」と読めばよいのです。本当は少し違うのですが、読んでいるうちにだいたい掴めます。ほか「SMP国債」とか「適格担保要件の適用除外」とかが面倒ですが、上記3つさえ把握できていればだいたい大丈夫です。
IMF
トロイカ、すなわち欧州委員会、ECB(ヨーロッパ中央銀行)IMFの三者がギリシャ政府を追い詰めてゆきます。欧州委員会というのはEUの機関の一つです。実際にバルファキスが対峙するのは「ユーログループ」という集会なのですが、細かいこと考えずに「EUとECBとIMF」という理解で良いかと思います。
問題なのは実は「IMF」です。国際通貨基金。つまりヨーロッパの組織ではないのです。世界全体をカバーする組織です。それがギリシャ救済にお金を出したし、話し合いに参加している。
日本も可能性は低いですがIMFからお金を借りる可能性はあります。ですが例えば徳島県がIMFからお金を借りることはありません。徳島県にお金が必要なら、日本政府がIMFから借りて、徳島県に流します。ところがギリシャにはIMFがお金を貸している。かなり奇っ怪なことをしているのです。問題の根源は前述のように、リーマンショックの時の対応です。一つの無理が連鎖的に無理を引き起こしているのです。
ドイツVSフランス&アメリカ
そのIMFは、アメリカの組織です。第二次世界大戦の勝者になったアメリカは、3つの経済機構を造りました。IMFと、世界銀行と、OECD(経済協力開発機構)です。いずれもアメリカの世界経済支配機構です。IMFの本部はワシントンにありますが、専務理事は基本的にヨーロッパ人です。当時の専務理事ラガルドもフランス人です。現在の専務理事ゲオルギエバも、ブルガリア人ですがフランス大統領マクロンの力で就任したとされています。ドイツ人が専務理事になったことも1度ありますが、基本的にフランス人がなるポジションのようです。
つまり、敗戦国だが経済的にも政治的も強いドイツを抑える力としてIMFは機能しています。フランスとアメリカをあわせた力です。したがってIMFとドイツ財相はしばしばぶつかり合います。
作中専務理事ラガルドは言います。「私達はみんなメルケル(ドイツ首相)が大好きなんですよ」。これはIMF専務理事もドイツ首相には相当気を使っている、という意味です。そうでなければ著者はこの無駄な文章を書きません。トロイカ内部も実はガチガチの緊張関係にあるのです。
そうでなければユーログループもバルファキスの提案にも柔軟に対応できたはずです。理屈はあっているのですから。しかし内部の緊張関係から、一度合意した方針を動かすことが非常にリスキーな状態にある。だから高圧的だし、だから論理的にバルファキスを説得できない。
そう考えれば、もうひと押しで勝てたとするバルファキスの意見も、それなりに妥当性があります。ギリシャ政府内部よりはトロイカ内部のほうが実はやっかいな状況だったと思います。砂の城だったのです。ただし、役者のクオリティーは比較にならないほどトロイカが上です、残念ながら。
キャラ紹介・外国
ショイブレ
ユーログループに出席するドイツ財相です。「ザ・ドイツ人」です。傲慢で頭ごなしで頑固でイヤミが多くすぐ不機嫌になります。職場にこんな上司が居たら最悪ですが、交渉相手としても最悪です。
バルファキスは彼に苦しめられさんざん叩かれた挙げ句に、最終的に少し仲良くなります。仲良くなった時に見えたのは、その外面とは全く別の、繊細で純粋で崇高な姿でした。
これが実は作中最大のドラマになります。ギリシャをいじめる最大の敵の中に最も美しいものを見つけるのです。これがなければ普通のノンフィクション作品でした。
ラガルド
当時はIMF専務理事です。現在はECB総裁です。実は2008年にはフランス財相でした。つまりベタベタの当事者です。最初けんもほろろの対応でしたが、段々会話が成立してゆきます。
彼女は才能はさほどありませんが、十分に頭がよく、人の話をよく聞く能力があり(これは一般に思われているよりまれな能力です)、かつ超人的に我慢強いです。
「黒い匣」の原題は「Adult in the Room」=「あの部屋の大人」ですが、これはラガルドの発言で、反語です。部屋の中で延々と討議を繰り返す政治家達を「命令に従うだけの子供だ」と言っているのです。確かに彼女は大人です。
ドラギ
もっともわけがわからないのがECB総裁マリオ・ドラギです。
作中には明示されていませんが、経済の才能は一流です。しかし政治的才能がほぼゼロです。バルファキスにチンケなアップダウン勝負をかけてあっさり敗れます。無駄すぎて謎な行動ですが、極端に政治的才能が無いだけと解釈すると全ての行動が整合します。
デイセルブルーム
ネット検索ではダイセルブルームとすると出て来やすいようです。ユーログループ議長です。
嫌なやつ、というより子供です。でも悪役キャラとしては非常に出来が良いのです。少なくとも仕事熱心です。なりふりかまわず頑張れます。
マクロン
当時フランス経済大臣です。後に大統領になります。確かに逸材です。怪盗ルパンの如くすばしっこく活動して、最後メルケルに降ろされます。
「彼がフランスの財務大臣だったら結果は違っていた」とは著者の弁です。
メルケル
ボスキャラです。弱点の見極め能力が極めて高いです。ギリシャ政府最大の弱点はアレクシス・チプラス首相です。数回アップダウン作戦を実行して完全に籠絡します。
サンダース
著者と面識もないのに突然電話をしてきます。すごい嗅覚です。こちらも逸材です。色々助けてくれます。
でも結局2019大統領予備選挙でバイデンに負けましたから、やはりインサイダーであることは政治家にとって重要であるようです。
敗因
バルファキスはどうすれば勝てたのでしょうか?私なりに色々考えてみました。正しいかどうかわかりませんが。
1、パパスと親密になっておくべきだった
チプラスの側近です。経済学部卒業です。でも経済学の実力は一流ではないです。カンは良いのですが。バルファキスのような頭の良い人は、こういうのを馬鹿にする傾向があります。
でもパパスとの信頼関係をもっと高めていたら、アレクシスはデイセルブルームやメルケルにさほどやられなかったでしょう。彼が内閣の中心だったのです。
2、情報局長ルバティスとの関係
情報局長ルバティスはかなりの切れ者のようでした。
最初著者に親切でしたが、ルバティスが懇願したにも関わらず、彼の知り合いの賭博委員会議長を解任してしまいます。3月のことです。そこからネガキャンが始まります。致命的な失敗でした。
4/24ラトビアで会議がありましたが、バルファキスはその会議で取り乱したと、のちにルバティスに非難されます。嘘な情報なんですが、周りは信じます。
4/27にアメリカに居る経済学者と電話で話します。電話を切って30分後に相手からもう一度かかってきます。実はNSC(アメリカ国家安全保障会議)から電話があって、「バルファキスは本当にデフォルトをするつもりなのか?」と質問された、と言われます。全部筒抜けです。
国家権力の重要なカナメが情報局です。ここを失うとちょっと勝負になりません。
3、ギリシャ中央銀行総裁ストゥルナラス
前の政権が中銀総裁に押し込んで、すぐに政権交代になりました。中銀の役目は受動的、ってのが最近の言説ですし、ましてやギリシャ中銀は通貨発行能力持たないからウェイトは下がるはずなんですが、いざ戦闘となるとやはりすごい存在です。ものすごく足を引っ張られます。
政権発足当初に首を切るべきでした。切ることに反対したのはバルファキス自身です。なぜ反対したかといえば、当時はすでに決別した後だったのですが、昔は親しい友人だったからです。甘いです。失敗です。
4,ドラガサキス=フリアラキスのライン
これはもう問題外の裏切り者です。しかしパパス、ルバティスとさえ上手くいっていれば押さえ込めた可能性があります。というのは、連中の行動のかなりの部分がアレクシス・チプラス首相から直接命令受けていると思われるからです。彼らは最初から「バルファキスのお目付け役」として配置されていた可能性が高いです。バルファキスはエコノミストとして優秀な人材を周りに集めますが、経済理解はそこそこでよいから、権謀術数がわかる人間を一人でも近くに置いておくべきでした。
5,アメリカ
ボスキャラがメルケルである以上、彼女にプレッシャーかけれるのはアメリカしかありません。
ところがアメリカ内部の態度は割れていて、オバマはバルファキスに賛成、財務省は反対、国務省は賛成、NSCは反対、まだら模様だったのです。
昔ギリシャが軍事政権だったときにはべったりアメリカの舎弟だったわけで、ギリシャのような劣等生をいまさら引き受けようという気はないはずですが、ドイツにプレッシャーかけるのは大好きなはずです。
ただ大西洋の向こうの超大国なので、どの程度有効な活動が可能だったのか私にもわかりません。「ザ・ドイツ人」ショイブレがかなり手を打っていたようですから、ギリシャの国力ではどうやっても無理だったのかもしれません。ECBの欠陥システムがバルファキスの活動で抜本的に改善されることは、はっきり望んでいなかったはずですし。