タルコフスキーの映画が一見難解に見えるのは、
本人がガチガチのキリスト教大好き人間であったのに、
当時のソ連ではそれがストレートに表現出来ない環境であったからである。
惑星ソラリスおよびストーカーは、
人間の内面の願望をすべてかなえる神が存在するとして、
それに触れた人間の戸惑いと煩悶を描いたものである。
サクリファイスは、
最終シーンが「父と子と精霊」の三位一体教義を、
映像化したものになっている。
ノスタルジアはちょっと異例で、望郷と信仰がぐっちゃになっている。
細かく解析すればキリスト教的なところは色々出てくるだろうが。
鏡もそうで、
「疑いもなく
教会の分裂は欧州からロシアを引き離した
欧州を揺るがした出来事に我々は関与していない
しかしロシアにはロシアの使命があった
その広大な大地は蒙古の侵入を飲み込んだ
タタール人は西の国境を越えようとはせず
やがて退いた
かくしてキリスト教文明は救われたのだ
その使命のため
ロシアは特異な在り方を強いられ故に
他のキリスト教国とは
全く異なるキリスト教世界を形成した」
というセリフもあるくらい、それくらい
徹頭徹尾宗教的なのである。
そのような映画で、小鳥が飛ぶシーンが出てきた場合、
(三位一体教義の精霊は通常鳩で描かれるので)
これは精霊を表しているかもしれない、と思うのが鑑賞の基本である。
となると失踪した父とはなにか。
ロシアから信仰が失われたことを表現しているのではないか。
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2014年3月27日木曜日
2014年3月25日火曜日
タルコフスキー「鏡」・解読4
作中長々と語られるセリフ 字幕より
(冒頭に登場する医者の言葉)
こんな気がしたことはないかな
植物にも感情や意識があると
理解する力さえも
このハシバミの木だって
(ハンの木よ)
何だっていい
木は動かない
人間は始終走り回り
くだらんおしゃべり
それは我々が
内なる自然を信じず
何かとうたがり深くてせっかちで
考える時間がないから
(イグナートが途中朗読させられるノートの言葉)
しかるに
違った
疑いもなく
教会の分裂は欧州からロシアを引き離した
欧州を揺るがした出来事に我々は関与していない
しかしロシアにはロシアの使命があった
その広大な大地は蒙古の侵入を飲み込んだ
タタール人は西の国境を越えようとはせず
やがて退いた
かくしてキリスト教文明は救われたのだ
その使命のため
ロシアは特異な在り方を強いられ故に
他のキリスト教国とは
全く異なるキリスト教世界を形成した
ロシアが歴史的に無価値であるという意見
それには断固 異を唱える
ロシアの状況をよく見れば
後世の歴史家も目を見張るはず
私個人は皇帝の忠実な民である
しかし 現状に満足しているとは言い難い
文学者としていらだち 人間として屈辱を覚える
しかし誓って申し上げる
私は祖国の変革も
他のいかなる歴史も望みはしない
神がロシアに授けた歴史以外・・・
(プーシキンの手紙 1836年)
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(冒頭に登場する医者の言葉)
こんな気がしたことはないかな
植物にも感情や意識があると
理解する力さえも
このハシバミの木だって
(ハンの木よ)
何だっていい
木は動かない
人間は始終走り回り
くだらんおしゃべり
それは我々が
内なる自然を信じず
何かとうたがり深くてせっかちで
考える時間がないから
(イグナートが途中朗読させられるノートの言葉)
しかるに
違った
疑いもなく
教会の分裂は欧州からロシアを引き離した
欧州を揺るがした出来事に我々は関与していない
しかしロシアにはロシアの使命があった
その広大な大地は蒙古の侵入を飲み込んだ
タタール人は西の国境を越えようとはせず
やがて退いた
かくしてキリスト教文明は救われたのだ
その使命のため
ロシアは特異な在り方を強いられ故に
他のキリスト教国とは
全く異なるキリスト教世界を形成した
ロシアが歴史的に無価値であるという意見
それには断固 異を唱える
ロシアの状況をよく見れば
後世の歴史家も目を見張るはず
私個人は皇帝の忠実な民である
しかし 現状に満足しているとは言い難い
文学者としていらだち 人間として屈辱を覚える
しかし誓って申し上げる
私は祖国の変革も
他のいかなる歴史も望みはしない
神がロシアに授けた歴史以外・・・
(プーシキンの手紙 1836年)
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タルコフスキー「鏡」・解読3
作中タルコフスキー監督の父の詩を、監督が朗読するシーンがいくつもある。
以下字幕からの文字起こし
(医者の去った後)
逢瀬の一瞬また一瞬を祭りのごとく祝った
世界は二人のもの
君は鳥の羽より軽やかに大胆に
階段を駆け下り僕を誘い入れた
ぬれそぼるライラックの中を抜け
鏡の向こう 君の世界へと
夜のとばりが下り慈愛が僕を満たした
祭壇の扉が開かれ裸体は闇に輝き
静かにその身を傾ける
僕はつぶやく”君に幸あれ”と
だが分かっていた その祈りの不遜さを
眠る君のまぶたを宇宙の色で染めるライラック
青く染まったまぶたは安らぎに満ち
手は温かだった
水晶の中で川は脈打ち
山々はかすみ 海はきらめく
君はその水晶の天球を手に王座に眠る
ああ 君は僕のものだった
言葉は力に満ち 響き渡った
”君”という言葉が新たな意味を明かす
”君”すなわち”王”なのだ
この世は一変した
たらいまで違って見える
二人の前には厚い水の層
いずこへか運ばれる
僕らの前に蜃気楼のごとく都が広がる
草は足元にひれ伏し
鳥は共に旅をし
魚は川をさかのぼり 空は目の前に開けた
その時 運命が僕らのすぐ後ろに
かみそりを手に 狂人のように
(印刷所)
昨日 朝から君を待った
君はやはり来なかった
空は祝祭のごとく晴れ渡り
外套いらずだった
今日 君は来てくれたが
何やらどんよりした日となり
しかも夜更けには雨
しずくが冷たい枝を伝わり
言葉でもハンカチでもぬぐえない
(腐海にて)
予感を信じない
前兆を恐れない
中傷も悪意も避けはしない
この世に死は なし
すべて不死不滅なのだから
17歳も70歳も死を恐れる必要はない
現実と光あるのみ
闇も死もないこの世で
人々は海辺にたたずみ
不死の群れを待つ
そして綱を引くのだ
家にとどまれ 家は崩れない
私は好きな世紀を選び そこに生き 家を築く
あなた方の子や妻も 私と共に食卓に
曽祖父と孫も招こう
そこに未来が現れる
私が手を挙げれば 光はあなた方のもとに
私は過ぎ去った日々をこの鎖骨で支えてきた
ウラルを抜けるように時を通り抜けてきた
身の丈の世紀を選び
我々は南へと草原に土煙をあげ
草いきれの中キリギリスは戯れ予言する
(以下雪の少年)
僧侶のごとき死の脅し
私は運命を鞍に結び
少年のように腰を浮かせ 未来と駆ける
幾世紀も我が血を流す
不死とはそのためか
常に暖かく確かな一隅
命に代えても守りたい
飛んでくる矢が 糸となり光に導かぬのなら
(以下森の家で)
私は同じ夢をよくみる
不思議なほど
夢は私を連れ戻そうとしているようだ
あの懐かしい大切な場所へ
私はそこで生まれた
四十数年前 のりの効いたクロスの上で
家に入ろうとすると必ず邪魔が・・
よく見る夢だった 慣れてしまった
すすけた丸太の壁や半開きのドアを見ると
これは夢だと分かる
目覚めの予感に
計り知れない喜びがかすんでゆく
時にはあの夢を見なくなる
家も林もでてこない
気がめいってしまう
夢を待ちつつ待ちきれなくなる
夢の中で子供に戻り
再び幸せを感じる
そこには未来が
可能性がまだある
(田舎の近所の家に行った帰り道で)
人間に肉体は1つ 独房だ
5カペイカ硬貨大の耳や目 傷だらけの皮膚
それが骨格を覆っているのだ
”いとわしい”と魂
角膜を突き抜け 魂は飛ぶ
天空の泉へと
鳥の馬車めざし
独房の格子を通して聞こえる
森や畑のざわめき 七つの海の高鳴り
肉体なき魂は 裸体のごとく罪深く
思考も 行動も 意図も言葉もない
答えなきなぞなぞ
”誰も踊らぬ壇上で踊り 帰ってきた人は?”
夢に見る もう一つの魂
別の衣をまとい 光り輝き 希望へと駆け抜け
酒精のように燃え 影もなく地を去る
ライラックの花房を記念に残し・・・
子よ 走れ エウリディケ(オルフェウスの妻)を嘆くな
棒で銅の輪を 己の世界を追え
かすかにでも
一歩一歩の歩みに 陽気に 無精に
大地がさわめく限り
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以下字幕からの文字起こし
(医者の去った後)
逢瀬の一瞬また一瞬を祭りのごとく祝った
世界は二人のもの
君は鳥の羽より軽やかに大胆に
階段を駆け下り僕を誘い入れた
ぬれそぼるライラックの中を抜け
鏡の向こう 君の世界へと
夜のとばりが下り慈愛が僕を満たした
祭壇の扉が開かれ裸体は闇に輝き
静かにその身を傾ける
僕はつぶやく”君に幸あれ”と
だが分かっていた その祈りの不遜さを
眠る君のまぶたを宇宙の色で染めるライラック
青く染まったまぶたは安らぎに満ち
手は温かだった
水晶の中で川は脈打ち
山々はかすみ 海はきらめく
君はその水晶の天球を手に王座に眠る
ああ 君は僕のものだった
言葉は力に満ち 響き渡った
”君”という言葉が新たな意味を明かす
”君”すなわち”王”なのだ
この世は一変した
たらいまで違って見える
二人の前には厚い水の層
いずこへか運ばれる
僕らの前に蜃気楼のごとく都が広がる
草は足元にひれ伏し
鳥は共に旅をし
魚は川をさかのぼり 空は目の前に開けた
その時 運命が僕らのすぐ後ろに
かみそりを手に 狂人のように
(印刷所)
昨日 朝から君を待った
君はやはり来なかった
空は祝祭のごとく晴れ渡り
外套いらずだった
今日 君は来てくれたが
何やらどんよりした日となり
しかも夜更けには雨
しずくが冷たい枝を伝わり
言葉でもハンカチでもぬぐえない
(腐海にて)
予感を信じない
前兆を恐れない
中傷も悪意も避けはしない
この世に死は なし
すべて不死不滅なのだから
17歳も70歳も死を恐れる必要はない
現実と光あるのみ
闇も死もないこの世で
人々は海辺にたたずみ
不死の群れを待つ
そして綱を引くのだ
家にとどまれ 家は崩れない
私は好きな世紀を選び そこに生き 家を築く
あなた方の子や妻も 私と共に食卓に
曽祖父と孫も招こう
そこに未来が現れる
私が手を挙げれば 光はあなた方のもとに
私は過ぎ去った日々をこの鎖骨で支えてきた
ウラルを抜けるように時を通り抜けてきた
身の丈の世紀を選び
我々は南へと草原に土煙をあげ
草いきれの中キリギリスは戯れ予言する
(以下雪の少年)
僧侶のごとき死の脅し
私は運命を鞍に結び
少年のように腰を浮かせ 未来と駆ける
幾世紀も我が血を流す
不死とはそのためか
常に暖かく確かな一隅
命に代えても守りたい
飛んでくる矢が 糸となり光に導かぬのなら
(以下森の家で)
私は同じ夢をよくみる
不思議なほど
夢は私を連れ戻そうとしているようだ
あの懐かしい大切な場所へ
私はそこで生まれた
四十数年前 のりの効いたクロスの上で
家に入ろうとすると必ず邪魔が・・
よく見る夢だった 慣れてしまった
すすけた丸太の壁や半開きのドアを見ると
これは夢だと分かる
目覚めの予感に
計り知れない喜びがかすんでゆく
時にはあの夢を見なくなる
家も林もでてこない
気がめいってしまう
夢を待ちつつ待ちきれなくなる
夢の中で子供に戻り
再び幸せを感じる
そこには未来が
可能性がまだある
(田舎の近所の家に行った帰り道で)
人間に肉体は1つ 独房だ
5カペイカ硬貨大の耳や目 傷だらけの皮膚
それが骨格を覆っているのだ
”いとわしい”と魂
角膜を突き抜け 魂は飛ぶ
天空の泉へと
鳥の馬車めざし
独房の格子を通して聞こえる
森や畑のざわめき 七つの海の高鳴り
肉体なき魂は 裸体のごとく罪深く
思考も 行動も 意図も言葉もない
答えなきなぞなぞ
”誰も踊らぬ壇上で踊り 帰ってきた人は?”
夢に見る もう一つの魂
別の衣をまとい 光り輝き 希望へと駆け抜け
酒精のように燃え 影もなく地を去る
ライラックの花房を記念に残し・・・
子よ 走れ エウリディケ(オルフェウスの妻)を嘆くな
棒で銅の輪を 己の世界を追え
かすかにでも
一歩一歩の歩みに 陽気に 無精に
大地がさわめく限り
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