作中タルコフスキー監督の父の詩を、監督が朗読するシーンがいくつもある。
以下字幕からの文字起こし
(医者の去った後)
逢瀬の一瞬また一瞬を祭りのごとく祝った
世界は二人のもの
君は鳥の羽より軽やかに大胆に
階段を駆け下り僕を誘い入れた
ぬれそぼるライラックの中を抜け
鏡の向こう 君の世界へと
夜のとばりが下り慈愛が僕を満たした
祭壇の扉が開かれ裸体は闇に輝き
静かにその身を傾ける
僕はつぶやく”君に幸あれ”と
だが分かっていた その祈りの不遜さを
眠る君のまぶたを宇宙の色で染めるライラック
青く染まったまぶたは安らぎに満ち
手は温かだった
水晶の中で川は脈打ち
山々はかすみ 海はきらめく
君はその水晶の天球を手に王座に眠る
ああ 君は僕のものだった
言葉は力に満ち 響き渡った
”君”という言葉が新たな意味を明かす
”君”すなわち”王”なのだ
この世は一変した
たらいまで違って見える
二人の前には厚い水の層
いずこへか運ばれる
僕らの前に蜃気楼のごとく都が広がる
草は足元にひれ伏し
鳥は共に旅をし
魚は川をさかのぼり 空は目の前に開けた
その時 運命が僕らのすぐ後ろに
かみそりを手に 狂人のように
(印刷所)
昨日 朝から君を待った
君はやはり来なかった
空は祝祭のごとく晴れ渡り
外套いらずだった
今日 君は来てくれたが
何やらどんよりした日となり
しかも夜更けには雨
しずくが冷たい枝を伝わり
言葉でもハンカチでもぬぐえない
(腐海にて)
予感を信じない
前兆を恐れない
中傷も悪意も避けはしない
この世に死は なし
すべて不死不滅なのだから
17歳も70歳も死を恐れる必要はない
現実と光あるのみ
闇も死もないこの世で
人々は海辺にたたずみ
不死の群れを待つ
そして綱を引くのだ
家にとどまれ 家は崩れない
私は好きな世紀を選び そこに生き 家を築く
あなた方の子や妻も 私と共に食卓に
曽祖父と孫も招こう
そこに未来が現れる
私が手を挙げれば 光はあなた方のもとに
私は過ぎ去った日々をこの鎖骨で支えてきた
ウラルを抜けるように時を通り抜けてきた
身の丈の世紀を選び
我々は南へと草原に土煙をあげ
草いきれの中キリギリスは戯れ予言する
(以下雪の少年)
僧侶のごとき死の脅し
私は運命を鞍に結び
少年のように腰を浮かせ 未来と駆ける
幾世紀も我が血を流す
不死とはそのためか
常に暖かく確かな一隅
命に代えても守りたい
飛んでくる矢が 糸となり光に導かぬのなら
(以下森の家で)
私は同じ夢をよくみる
不思議なほど
夢は私を連れ戻そうとしているようだ
あの懐かしい大切な場所へ
私はそこで生まれた
四十数年前 のりの効いたクロスの上で
家に入ろうとすると必ず邪魔が・・
よく見る夢だった 慣れてしまった
すすけた丸太の壁や半開きのドアを見ると
これは夢だと分かる
目覚めの予感に
計り知れない喜びがかすんでゆく
時にはあの夢を見なくなる
家も林もでてこない
気がめいってしまう
夢を待ちつつ待ちきれなくなる
夢の中で子供に戻り
再び幸せを感じる
そこには未来が
可能性がまだある
(田舎の近所の家に行った帰り道で)
人間に肉体は1つ 独房だ
5カペイカ硬貨大の耳や目 傷だらけの皮膚
それが骨格を覆っているのだ
”いとわしい”と魂
角膜を突き抜け 魂は飛ぶ
天空の泉へと
鳥の馬車めざし
独房の格子を通して聞こえる
森や畑のざわめき 七つの海の高鳴り
肉体なき魂は 裸体のごとく罪深く
思考も 行動も 意図も言葉もない
答えなきなぞなぞ
”誰も踊らぬ壇上で踊り 帰ってきた人は?”
夢に見る もう一つの魂
別の衣をまとい 光り輝き 希望へと駆け抜け
酒精のように燃え 影もなく地を去る
ライラックの花房を記念に残し・・・
子よ 走れ エウリディケ(オルフェウスの妻)を嘆くな
棒で銅の輪を 己の世界を追え
かすかにでも
一歩一歩の歩みに 陽気に 無精に
大地がさわめく限り
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