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2014年3月28日金曜日

タルコフスキー「鏡」・解読6

作中見たこともない中年おばさんが、
老人のメイドを従えて、
突然主人公の留守宅に登場し、
イグナートにノートを朗読するように言う。

そこには前回述べた、
ロシアがキリスト教文明を救った、云々が書いてあるのだが、
注目すべきはこのあばさんのコップである。

非常に奇妙な形をしたコップで、
卵の上1/4を切り取ったような形をして、
ガラスのような足が付いている。
表面には精巧に美しい装飾が加えられている。

これも象徴的に表現されているのだが、
ロシアで卵といえば、イースターエッグである。

http://ja.wikipedia.org/wiki/インペリアル・イースター・エッグ

これほどまでに美しい装飾が加えられている以上、
このおばさんはロシア皇帝、ないし皇帝のごとくロシア全体を考える意思を持った存在、
という意味である。
だから老女にお茶を入れさせる。
偉い人なのである。

その偉い人が、
作品の最期あたりで、
病臥している主人公の枕元でぼやく。
「息子がこんなでは、お母さんはどうなるの?」
ロシア皇帝が心配するほどのお母さん、
となるとここで言う「母」はロシアの大地そのものであろう。
おばさんは、ロシアの精神、ロシアの大地の運命に思いを馳せているのである。

参考
http://yomitoki2.blogspot.com/2013/08/2_20.html



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2014年3月27日木曜日

タルコフスキー「鏡」・解読5

タルコフスキーの映画が一見難解に見えるのは、
本人がガチガチのキリスト教大好き人間であったのに、
当時のソ連ではそれがストレートに表現出来ない環境であったからである。


惑星ソラリスおよびストーカーは、
人間の内面の願望をすべてかなえる神が存在するとして、
それに触れた人間の戸惑いと煩悶を描いたものである。

サクリファイスは、
最終シーンが「父と子と精霊」の三位一体教義を、
映像化したものになっている。

ノスタルジアはちょっと異例で、望郷と信仰がぐっちゃになっている。
細かく解析すればキリスト教的なところは色々出てくるだろうが。


鏡もそうで、

「疑いもなく
教会の分裂は欧州からロシアを引き離した
欧州を揺るがした出来事に我々は関与していない

しかしロシアにはロシアの使命があった
その広大な大地は蒙古の侵入を飲み込んだ
タタール人は西の国境を越えようとはせず
やがて退いた
かくしてキリスト教文明は救われたのだ

その使命のため
ロシアは特異な在り方を強いられ故に
他のキリスト教国とは
全く異なるキリスト教世界を形成した」

というセリフもあるくらい、それくらい
徹頭徹尾宗教的なのである。

そのような映画で、小鳥が飛ぶシーンが出てきた場合、
(三位一体教義の精霊は通常鳩で描かれるので)
これは精霊を表しているかもしれない、と思うのが鑑賞の基本である。

となると失踪した父とはなにか。
ロシアから信仰が失われたことを表現しているのではないか。



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2014年3月25日火曜日

タルコフスキー「鏡」・解読4

作中長々と語られるセリフ 字幕より

(冒頭に登場する医者の言葉)
こんな気がしたことはないかな
植物にも感情や意識があると
理解する力さえも
このハシバミの木だって
(ハンの木よ)
何だっていい
木は動かない
人間は始終走り回り
くだらんおしゃべり
それは我々が
内なる自然を信じず
何かとうたがり深くてせっかちで
考える時間がないから


(イグナートが途中朗読させられるノートの言葉)
しかるに
違った

疑いもなく
教会の分裂は欧州からロシアを引き離した
欧州を揺るがした出来事に我々は関与していない

しかしロシアにはロシアの使命があった
その広大な大地は蒙古の侵入を飲み込んだ
タタール人は西の国境を越えようとはせず
やがて退いた
かくしてキリスト教文明は救われたのだ

その使命のため
ロシアは特異な在り方を強いられ故に
他のキリスト教国とは
全く異なるキリスト教世界を形成した

ロシアが歴史的に無価値であるという意見
それには断固 異を唱える
ロシアの状況をよく見れば
後世の歴史家も目を見張るはず

私個人は皇帝の忠実な民である
しかし 現状に満足しているとは言い難い
文学者としていらだち 人間として屈辱を覚える

しかし誓って申し上げる
私は祖国の変革も
他のいかなる歴史も望みはしない
神がロシアに授けた歴史以外・・・
(プーシキンの手紙 1836年)


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