ページ

2009年5月18日月曜日

「カラマーゾフの兄弟」をよみとく 1

高校生のころから何度も読んできた本なので、
何回目の通読かは覚えていないが、
おそらく10回目以上だったのだろう、
わたしがその、決定的なヒントらしきものに気が付いたのは、
第二編「場違いな会合」の中の一節を読んでいたときのことだった。

長老はカラマーゾフ家の会合を一時抜け出して、
信者の女性達に面会に行く。
そのなかの一人が、やたら暗く、陰惨で、印象的である。

「結婚生活はつらいものでした。
夫は年寄りで、それはひどくわたしを痛めつけしたものでございます、、、
そのとき、あの大それた考えが心に湧いたのでございます」

この女性は、自分につらくあたる夫を殺害してしまったのだ。
長老はまずいと思ったのか、声を低くさせる。

「待ちなされ」
長老は言うと、耳をまっすぐ彼女の口に近づけた。
女は低い声でささやきつづけたので、ほとんど何一つ聞きとれなかった。
「3年目になるのだね?」
長老はたずねた。
「3年目です」

長老は彼女を励まし、首の聖像を彼女にかけてやる。
彼女は無言のまま、地に付くほど低く一礼する。

なにかあるぞ、直感的にそう思った。
この小説は父殺しが主題であるし、
長老は「場違いな会合」の最後で、
ミーチャの足元に深い礼をする。
そのミーチャはつまり、父親殺しの容疑者になる。
この、長老と信者の女性達の面接は、
単なるエピソードでも状況描写でもなく、
カラマーゾフの兄弟全編を予言するかのように、
主題を暗示している箇所ではないだろうか?

つまりカラマーゾフの兄弟という小説は、
ロシア的にのんべんだらりんと長い小説ではなく、
緻密に構造が計算されたものなのではないだろうか。

そしてその構造の謎をとくヒントが、
第二編「場違いな会合」の中の、
この長老と女性信者たちの面会のシーンに隠されているのではないだろうか。

0 件のコメント:

コメントを投稿