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2013年12月14日土曜日

シュワの墓所について

アニメ版ナウシカは、
コミック版ナウシカの、
ごく一部に過ぎない。
そしてコミック版ナウシカの本質は、
キリスト教批判であり、キリスト教克服である。

ペリー来航で西洋文明に触れた日本人は、
大きなショックを受けた。
西洋文明を理解し、消化しようと努力を重ねるが、
彼我の能力差はあまりにも大きい。
深刻なコンプレックスを伴う苦闘の中で、
徐々に明らかになってきたことは、
巨大なる西洋文明の本質は、
科学技術ではなく、
科学技術の母体となったキリスト教であり、
聖書であるということである。

だいたい太宰治、坂口安吾のあたりから相手の正体は明らかになっていた。
太宰は「如是我聞」という文章でそのことについて触れており、
坂口は太宰死去に際に「不良少年とキリスト」という文章を発表している。
キリスト教との対峙はその後も続き、
遠藤周作の浄土真宗的キリスト教もそうだし、
漫画では諸星大二郎「生命の木 ぱらいそさいくだ」もその系列である。

宮崎駿もその系列に連なる。
コミック版ナウシカは、非常にバイブルを重要視して、
そこに強い批判を加えている。
(そのことについて、
クリスチャンであり、宮崎ファンでもある、
立花隆、佐藤優が本格的に議論しようとせず、
避けて通ろうとしているのは、まことに残念である)

巨大な生きた石の塊、「シュワの墓所」は、
バイブルのことである。
宮崎はこのコミック版ナウシカを、
「ヨハネの黙示録」を元に組み立てている。
大地の浄化に必要とされる1000年という期間は、
千年王国に対応する。

「ヨハネの黙示録」では千年王国出現の直前に、
「この世の支配者たちの上に君臨されるかた」が出現する。
その人物は「血染めの衣」をまとっている。
ナウシカの服がオームの血、のちにシュワの墓所の血で染まることに対応している。

旧約聖書の冒頭の創世記は、
天地の始まりを説き、
新約聖書の終結のヨハネの黙示録は、
天地のこれからを説く。
全ての時間は、バイブル二冊の中に封じ込まれている。
人間に許されるのはただ、
バイブルの解釈だけである。
全ては計算された出来事であり、
生きているのはバイブルのみであり、
全ての生物は生命のなかばをバイブルに奪われたままになっている。


ナウシカは、キリスト教が生んだ科学技術の産物である巨神兵、すなわち核兵器を用いて、
シュワの墓所を破壊する。
これが知性主義の結末であるというのだ。

キリスト教とナウシカ、両者の根源的な対立点を述べよう。
両者は生と死をどのように捉えるかで決定的な相違がある。

キリスト教では、死は敗北であり、悪いものであり、生と対立するものである。
ナウシカにとって、死は生と相互依存的なものである。
死があるからこそ生があり、両者は不可分である。


「ヨハネの黙示録」の最終章である第22章19に、
「また、もしこの預言の書の言葉をとり除く者があれば、神はその人の受くべき分を、この書に書かれているいのちの木と聖なる都から、とり除かれる」
とある。
ここで言う「いのちの木」とは、創世記に記されている、知恵の木とともにエデンの園に生えていた「生命の樹」であろう。


知恵の樹の実を食べてアダムとイブは知恵を得た。
生命の樹の実を食べれば永遠の生命を得られたのだが、
神はそれを恐れてアダムとイブを楽園から追放した。
「ヨハネの黙示録」は、そのエデンに回帰しようとする物語である。
しかしナウシカは、知恵の樹も、生命の樹も、エデンも拒否した。
太宰や坂口は、ナウシカに会ったら、なんと語りかけただろうか?

5 件のコメント:

  1. 「庭の主」が管理する庭は、「ノアの箱舟」と「模造(人造)エデンの園」の二重イメージの気がするが、どう解釈されますか?

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  2. すみません、10年以上前で読み返さないと思い出せないのですが、ナウシカ捨てちゃいました、、、本当にすみません

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  3.  04/02/16 ですが、墓所は破壊しても庭は放置、なのが気になってます。
     なお、SFファンでないと宮崎駿の解釈は難しいです。「ナウシカ」は「デューン砂の惑星」
    の影響が非常に強いのは衆知と思いますが、巨蟲の触毛には「スラン(新人類スラン)」、
    「墓所」には「2001年宇宙の旅(モノリス)」、頭だけの皇帝には「ガンダム(ジオング)」、
    へのオマージュを見ないとまずいと思います。巨神兵の解釈は長くなるので割愛しますが。
     ところで、黙示録が「エデンへ回帰の物語」とは定説ですか、検索しても余り出ませんが?
     それと、黙示録より、ダンテ「地獄変」、を元に組み立てていると解釈は無理でしょうか?

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  4. なるほど、覚えていませんが放置でしたか。「デューン」「ガンダム」は(逆シャア以外)見ていないのでわかりません。確かにSFあんまり知りません。しかし先行作品への理解なしでも、作品自体の理解は可能だと思っています。なぜならば、作者本人が見たであろう作品を網羅することは、古い作品でしたら不可能ですから。といって知っているにこしたことはないと思いますが。「黙示録」とは「地獄の黙示録」のことでしょうか? ダンテ神曲の地獄編でしたら、可能性非常に高いと思います。しかし私がダンテを十分理解はしていないので、そこはそれ以上のことは言えません。元ネタの「闇の奥」ではクルツの現地妻が出てきます。彼女が闇のペアトリーチェなのかもしれませんが、「黙示録」には明示されていませんので、、

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  5.  24/02/16 でした、いろいろ間違えました。ダンテは地獄篇でした、地獄変は芥川でしたね。
     えー、貴殿が10年前に「『ヨハネの黙示録』は、そのエデンに回帰しようとする物語である。」と書かれていますので、それが定説なのか知りたいと思いまして御尋ねしました。
     えー、宮崎と「ガンダム」の富野は同じ1941年生まれで、非常に意識し合っているらしいのですが、この年齢のクリエイターは「2001年宇宙の旅」に相当な衝撃を受けたらしい。富野「ガンダム」の小型機ボールは「2001年」の小型艇、富野「イデオン」の映画版ラストの最終兵器は「2001年」の宇宙船の船尾(ロケット・ノズル)そのままです。
     「2001年」の原作者クラークは熱心なキリスト教徒で、最後にモノリスに入りスター・チャイルドへ変貌するくだりは、神に召され神の子になるような話と解されます。「ナウシカ」で最後に墓所に入り新人類の卵をどうこうのくだりは、キリスト教嫌いを公言する宮崎が反「2001年宇宙の旅」としてまとめたのだと、SFファンが見れば一目瞭然と思う。検索すると墓所の内部がバチカンの教義への皮肉だらけなのは教会関係者には知られているそうで、すると墓所はモノリスのオマージュであると同時にバイブルの例えであり、なるほどモノリスがそもそもバイブルの例えだったか、と合点した次第。
     では、墓所なみのもう一つの重要施設「庭」は、エデンか箱舟か両方か、「2001年」で月面にもモノリスがあったのも意味があり関連するのか、と考察に困っている次第。

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