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2014年1月3日金曜日

映画雑感・サクリファイスと黒澤の「夢」

若い頃は映画ファンだった。
当時はDVDなんてものはなく、
ビデオテープで映画を見ていた。
見まくった挙句にたどり着いたのが、
タルコフスキーだった。

タルコフスキー最後の作品「サクリファイス」を見たのは、
学生時代、地方の映画館でだった。
(ノスタルジアも、サクリファイスも、地方の映画館で見れたのである。
のんきな時代である。
他の作品はビデオで見た)

サクリファイスはキリスト教映画だった。
マタイ受難曲が流れ、
父と子と精霊の三位一体教義を美しく映像化したシーンを見て、
私は十分に満足しきってしまった。

最後にタルコフスキーの言葉が出る。
短い言葉だが、すでに末期ガンであった彼の、
遺言のような、絶叫のような言葉であった。

「この映画を息子アンドリューシャに捧げる。
希望と確信を持って

アンドレ・タルコフスキー」

そして私は映画ファンをやめた。
すでに彼が死去していたことは知っていた。
彼はソ連の映画監督であった。
資本主義社会ではこんな監督が生存不可能であることは、
十分承知していた。
「このレベルの作品がもう出現しないなら、ほかに楽しいことを探したほうが早い」

しかし結局二十年の時を経て、
ふたたび映画ファンに戻れたようである。
日本のアニメ監督の仕事のおかげである。
(宮崎も、押井も、タルコフスキーの影響を強く受けている)


年末あるデザイナーさんとお話していて、
その人が好きな映画として挙げていたので、懐かしくなり、
正月に久しぶりに「惑星ソラリス」を見た。

ふと気がついた。
黒澤明の「夢」あれはほとんど、
タルコフスキーのパクリではないかしら。

タルコフスキーの死去は1986年
黒澤の「夢」は1990年の作品である。
黒澤のほうがずっと先輩である。
普通先輩が後輩をまるごとパクる、というのは考えにくい。
しかしたとえば「惑星ソラリス」の水草のシーン



「夢」の最終章「水車のある村」の最後のシーン




まったく同じではないか?
発見してかなり動揺してしまった。

これほどの著名な作家が後輩をマルパクリとは、恥を知らないか?
と興奮しても仕方が無いので、
冷静になって一覧表にしてみた。

「夢」は8章から成る。

1)「日照り雨」に相当するタルコフスキーのシーンは思い浮かばない
2)「桃畑」の鈴を持った少女は、青い服でソラリスに登場する
3)「雪あらし」凍った女性という意味ではソラリスの妻役と共通
4)「トンネル」ストーカーに出てくる意味深い犬に共通
5)「鴉」画家を描いている。「アンドレイ・ルブリョフ」に共通。
6)「赤富士」思い浮かばない
7)「鬼哭」思い浮かばない
8)「水車のある村」上記のように水草のシーンがソラリスに酷似

このように類似がたくさんあるのである。

だれが見ても、6と7は出来が悪い。
なんでこの話を入れたのか理解不能であった。

日照り雨は狐の嫁入りの話だから結婚式の話、
水車のある村は葬式の話だから、
映画全体としては人間の一生を描いたものだ。

じゃあなんで原発と核汚染の話が必要だったのか?

タルクフスキーの遺作「サクリファイス」は、
核戦争によって壊滅した世界を救済しようとする話である。
主人公は「日本の木」を子供と育てており、
最後は着物を着て、尺八音楽を流しながら家に火をつける。

そういえばタルコフスキーは、チェルノブイリ事故のついてもコメントしていた。
「チェルノブイリという言葉は、ヨハネの黙示録にある苦よもぎ、という意味だ」
チェルノブイリ事後は1986年4月
彼の死去は同年12月である。


というわけで、私の組み立てた仮説は以下である。

1)黒澤はタルコフスキーの友人だったから彼の死を悼んだ。
2)のみならず、彼の映画、「サクリファイス」のメッセージを、強く受け止めた。
3)おりしもチェルノブイリの事故があった。
4)コッポラ、ルーカス、スピルバーグ、スコセッシによびかけて、
タルコフスキーの追悼映画を作った。それが「夢」であった。
全編タルコフスキーへのオマージュに満ちている。
しかしそのことは黒澤は口にはしなかった。

「夢」はパクリではなく、オマージュだった、
そう考えれば、赤富士、鬼哭の内容も納得できる。
この仮説が正しいとすれば、
黒澤も、コッポラも、ルーカスも、スピルバーグも、スコセッシも、
立派なもんだ。

今こういう人材が居れば、
反日映画をアンジェリーナジョリーが作るってこともなかったんだろうな。
ハリウッドの主要な人材全部黒澤ファンだから、結果的に親日になっていた。
黒澤一人のおかげで日本は凄く助かっていたのだな。

それにしても黒澤の晩年、日本の映画村から総スカンをくらっていたが、
あれはなんだったのだろう。もったいないことをしたもんだ。

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